「ティツィアーノとヴェネツィア派展」をおすすめするたった1つの理由とはなにかー
ついに16世紀ヴェネツィア絵画の巨匠ティツィアーノの展覧会が上野で開催された。
目次
平日の朝がおすすめ
私が訪れたのは平日のことだった。
まだまだ寒さの続く1月だが、上野公園は人通りも多く、陽射しがあれば寒さには十分耐えられる。
展覧会の会場は東京都美術館。同じ館内で東京芸大の作品展も開催していた。
西洋美術館では2月28日からロマン主義の画家「シャセリオー展」
そういえば西洋美術史は現在次の展覧会の準備中、入り口には大きなポスターが貼られていた。
次回は、
「シャセリオー ―19世紀フランス・ロマン主義の異才」
シャセリオーは19世紀フランスのロマン主義時代の画家である。
19世紀初期のフランスといえば、新古典主義とロマン主義が同じフランス内に存在していた時期だ。
新古典主義の特徴
ロココ主義の反動として現れた新古典主義の特徴は、ジャック=ルイ・ダヴィッドの《皇帝ナポレオンの聖別式と皇妃ジョゼフィーヌの戴冠》のような形式的かつ写実的な美しさである。
ロマン主義の特徴
一方で、新古典主義の影響を受けながらも、それと対抗するように生まれたロマン主義絵画の特徴は、ロマンつまり憧憬、情景、エキゾチシズムなテーマを躍動感ある大胆なタッチで描く。
《サルダナパールの死》ドラクロワ
シャセリオーについて
シャセリオーは新古典主義の代表的作家ドミニック・アングルから絵画を学びつつ、アングルが興味を描き、絵画にもしたオリエンタルなテーマをロマン主義のタッチで後に描いた画家である。
《水浴のスザンナ》
「シャセリオー展」の魅力
新古典主義からロマン主義への移り変わり、違いを絵画から見てとれる点が1番の魅力である。
話を元に戻そう。
「ティツィアーノとヴェネツィア派展」について日程などの概要を念のために記しておきたい。
会期と時間
会期:2017年1月21日(土)~4月2日(日)
時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
※金曜日は20:00まで開館
休み:月曜日、3月21日(火)
4月2日まで、あと2ヶ月間あります。
会場
会場:東京都美術館
西洋美術館をさらに進んで行くとレンガ色の建物があります。
チケット
一般:1,600円
大学生:1,300円
前売り券であればさらに安くなります。
※詳しくは公式HPまで
それでは、今から本題へと移る。
「ティツィアーノとヴェネツィア派展」をおすすめする1つの理由
ティツィアーノを簡単にまとめると
ティツィアーノ・ヴェチェッリオは1488年(90?)ヴェネツィア共和国生まれ、ジョバンニ・ベルリーニが追求したヴェネツィア絵画の特徴「色彩や絵の具の塗り方」の優位性をさらに発展させた画家である。
同時期に活躍した盛期ルネサンスの画家とは
同時期に活躍していた画家を挙げると、
レオナルド・ダ・ヴィンチ(フィレンツェ、ミラノ)
ジョルジョーネ(ヴェネツィア)
ミケランジェロ(ローマ)
ラファエロ(ウルビーノ、ローマ)
など後世に名を残す優れた画家が多い。
ここで、簡単に盛期ルネサンスを支えたローマとヴェネツィア絵画の違いを紹介しよう。
16世紀の貿易が栄えたヴェネツィアでは、市や教会の発注による公共絵画ではなく、富裕層による個人発注の絵画が格段に増えた。
この歴史的事実が非常に重要である。
盛期ルネサンスを支えたローマとヴェネツィア絵画の違い
絵画を取り巻く環境
同時期のローマでは教皇庁からの発注が多かったのに対し、
東方とヨーロッパを結ぶ貿易で財をなしたヴェネツィアでは、個人蒐集向けの絵画が多く描かれた。
環境による作品の違い
ローマ
ローマでは教会などに飾るための大きな絵画が描かれたのに対し、
《システィーナ礼拝堂天井画》ミケランジェロ
ヴェネツィア
ヴェネツィアでは家に飾る用の宗教画や、高貴な人々を描いた肖像画など、今までよりも小さな絵画が増えてゆく。
《マグダラのマリア》ティツィアーノ
※もちろん、ティツィアーノもミケランジェロなどと同様に宮廷や聖堂用に大型の作品を描いています。
テーマの違い
ローマ
ローマが聖書や、ギリシャ神話など、皆が知っている物語をメインに描いたのに対し、
ミケランジェロ《最後の審判》
ヴェネツィア
ヴェネツィアでは、風景画や肖像画など、教養の高い商人が個人的に楽しめるような絵画が増えてゆく。
《ダナエ》ティツィアーノ
作風の違い
ローマ
ローマがデッサンを重視したのに対し、
ミケランジェロ
ヴェネツィア
ヴェネツィアではそもそも絵画そのものを楽しむための作品が描かれたので、色彩ありきの絵画が描かれたのです。
Isabella Stewart Gardner Museum
一般的なレビューはこういったことを知らないと楽しめないと書かれているかもしれない。
しかし今回の「ティツィアーノとヴェネツィア派展」は、このような知識なしで十分に楽しめるものだった。
では、私がこの展覧会を見て一番良かったこととはなにかー
深く考えるまでもなく、私は「フローラ」に感動した。
「ティツィアーノとヴェネツィア派展」を見にゆく理由は「フローラ」にある
ジョルジョーネから受けた影響
ティツィアーノはベルリーニに学んだのだが、実はベルリーニよりもティツィアーノと同時期に活躍したジョルジョーネの影響が強いと言われている。
ジョルジョーネの特徴は、静謐なテーマと、色彩美だ。
ジョルジョーネ代表作
《眠れるヴィーナス》
《テンペスタ》
近代油絵画の始祖
ローマを中心に活躍するミケランジェロは、ティツィアーノの《ダナエ》を見た際にこう指摘した。
「優れた絵画だが、デッサンの技術に甘さがある」
ミケランジェロの指摘は確かにその通りだ。
《ダナエ》は、アルゴス王アクリシオスの娘ダナエが、黄金の雨に姿を変えたオリュンポスの主神ユピテルと交る姿を優れた色彩で描いている絵画である。
しかし、荒々しいタッチは、「デッサン」という古典的な技法を正確に受け継ぎ、発展させてきたローマの画家の感覚とは多少とも相容れないものがあっただろう。
美術評論家ヴァザーリのティツィアーノ評
しかし、当時の美術評論家ヴァザーリの言うように、
「近くから見るとわけがわからないが、離れて見ると完璧な絵が浮かび上がってくる。一気呵成に描かれたようだが、実は何度も筆をくわえている」
色を重ね、自然をわれわれの目の見えるままにキャンパスに写し取る。つまりリアリズムの優位。
《エウロペの略奪》
これは、まさに近代油絵画の成し遂げようとしたことであり、ゆえに近代油絵画の創始者がジョルジョーネであり、ティツィアーノと呼ばれる所以なのである。
《メデューズ号の筏》テオドル・ジェリコー
まとめ:ティツィアーノが描くフローラとは
当時のヴェネツィア絵画は、ヴィーナスなど神秘的な対象も扱いつつ、目の前に見える風景、人物の美しさをそのまま描きとろうとしていた。
その頂点がジョルジョーネであり、ティツィアーノであった。
「フローラ」それは花と春の女神
「フローラ」とは花と春を象徴する女神である。
花と春、つまり自然が最高の美を奏でる瞬間を象徴した神がフローラなのである。
つまり、ティツィアーノがフローラを描くということは、目の前にある最高の《自然美》を象徴的に写しとることに他ならない。
つまり、ティツィアーノの《フローラ》は、我々人類の記憶に蓄えてきた《美しい花》のイメージの擬人化なのだ。
「フローラ」を見ると、この世のすべての花を足しても敵わないくらいの「優しい美」を感じることができる。
これが、「ティツィアーノとヴェネツィア派展」を観に行くべきたった1つの理由である。
《フローラ》ほど、心を優しくしてくれる絵画を見たことがない。
自然の美しさの極致を描きながらも、自然を超越した神秘的な美が《フローラ》にはある。
「神がどこから来たか」それは途方もない問題だ、しかし地球ではないどこか他の星から来たような神秘ささえ《フローラ》には感じられた…