アカデミー賞で6部門にノミネートし、主演のケイシー・アフレックが主演男優賞、監督のケネス・ロナーガン監督が脚本賞を受賞した傑作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。
取り返せないほど暗い過去を背負った一人の男が、甥の面倒を見る中で自分自身の心を少しずつ取り戻してゆく物語です。
この記事では、5月13日より日本での公開が開始された映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の感想やあらすじと、本作をおすすめする3つの理由をご紹介します。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』をおすすめする3つの理由
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観に行こうか迷っている人に、この映画をおすすめするポイントを3つご紹介します。
①『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は暗い作品ではない
日本公開されてまだ一週間、正直この作品を見ようか悩んでいる人もたくさんいると思います。悩む要因として、話が暗そうだ......という点が挙げられると思います。
ネタバレになってしまいますが、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』はバッドエンドではありません。この物語における一番のバッドな出来事は、ケイシー・アフレックが過去に些細な注意不足と、自己中心的な考えで起こしてしまったある事件です。
そこからの心の回復を描いた作品なので、決して暗い作品ではないのです。
コメディ的な笑いもある
また、ケイシー・アフレック演じるリー・チャンドラーは常に暗い心の中にとどまりながらも、亡くなった兄の息子、つまり自分の姪をどうするかという現実的な問題にも向き合っています。
また、この高校生の姪が抱える思春期にどう対処するかなど、コメディ要素を含む場面もたくさんあります。
②ケイシー・アフレックの演技はくせになる
このサイトでは2017年アカデミー賞以前から数多くの映画「ラ・ラ・ランド」関連記事を紹介してきました。そして「ラ・ラ・ランド」を見たときに、こんなに良い演技ができるライアン・ゴズリングがなぜアカデミー主演男優賞を受賞できないのだろうと疑問に思っていました。
そして『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を鑑賞し、もうこれは間違いなくアカデミー賞はケイシー・アフレックだと実感しました。
Forbes
ケイシー・アフレックの演技がすべて
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』におけるケイシー・アフレックの演技は、彼の演技を見るためだけに何度も映画館に通いたいと思うほどはまってしまう演技です。
事件以前のやんちゃで子供好きのリー・チャンドラーから、事件後に全てが変わってしまったリー・チャンドラー、そして姪との生活を通して変化してゆくリー・チャンドラー。それでも過去を取り戻すことはできないリー・チャンドラー。しかし、少しずつ変化してゆくリー・チャンドラー。
この映画はリー・チャンドラーの機敏な心の変化によってドラマが生まれてゆくのです。
つまり、ケイシー・アフレックの演技がすべてなのです。
暗い過去を背負ったリー・チャンドラーの人生を演じたケイシー・アフレックの演技力は本当に素晴らしい。役者やアーティストにもぜひ見て欲しいおすすめの作品です。
③空気が綺麗(サントラ&主題歌の賛美歌が美しい)
ボストンの町から1時間30分ほど北へ行くと到着する町マンチェスター・バイ・ザ・シーのシーンは、主に賛美歌や美しい音色のバイオリンがバックミュージックになっています。
雪の残る街道を車で走りながら、バックミュージックで流れる美しい賛美歌。なんて美しい瞬間。この作品には比類のないほど美しい瞬間がいくつもあります。タルコフスキー作品の雰囲気にも近いかもしれません。
この作品の根底にある素晴らしさを表現する賛美歌
日本の伝統芸能である能のように、血でも権力でも宗教でも乗り越えられない地点に来てしまったとき、ようやく神がくるものです。
この賛美歌は、まさにリー・チャンドラーの抱えた辛い苦しみを、何にもすがれない苦しみを、それでもリーを見捨てない大きな存在があることを静かに示しているのです。
人間がどうしようもなくなった時に動く大きな存在を描いた作品である
③の感想が『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を映画館で観て感じた後に残った自分の感情を言い得ているのかと思います。
リー・チャンドラーの抱えた辛い苦しみは、ごまかすことはできても消すことはできません。しかし、どうしようもなくなったときに、人には目には見えない大きな力が働くのです。
物語自体はとても静かに進み、リーの心の回復も本当にささやかです。でもリーを見捨てない何か大きな存在があることを感じさせます。
その大きな存在を決してアクション映画のように擬人化したり、娯楽映画のようにファンタジーに描いたり、宗教映画のように物語を破綻させる超常現象のように扱ったりせず、あくまでも淡々と主人公の姿を正確に描きながら表現するのが『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の良さです。
どんなに大きな罪や、後悔を背負った人間にも救いは必ずある。そんなことを私は思いました。
だから、何かに悩んでいる人とかにタイムリーにおすすめしたい映画ですし、だれでもそういう時は訪れるのですから、あらゆる人に見て欲しいと思います。
予告動画
私は主題歌の賛美歌を含む、この映画の雰囲気に良い意味でやられてしまいました。公式動画ではだけでは正直伝わらない良さがあります。
ケネス・ロナーガン監督×マット・デイモン製作
監督はケネス・ロナーガン。「アナライズ・ミー」「ギャング・オブ・ニューヨーク」の脚本や、またボストン映画批評家協会賞で作品賞にノミネートした「マーガレット」の監督・脚本など、脚本に定評のあるクリエーターです。
本作『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で初のアカデミー脚本賞にノミネートしました。ちなみに、本作に登場する青いダウンを着てリーに絡む男性がケネス・ロナーガンです。
また、本作のプロデューサーには俳優として活躍するマット・デイモンが参加しています。もともと、ケネス・ロナーガンとマット・デイモンがタッグを組んではじめました。
ケネス・ロナーガンについてさらに詳しく知りたい人は以下の記事をチェックしてみてくださいね。
上映中の映画館
東京ではシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川、イオンシネマ板橋、立川シネマシティ、イオンシネマ多摩センター、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場(6月24日より)にて上映中です。
他の都道府県で上映を予定している映画館は公式サイトをチェックしてください。
ちなみに、映画を見るまでマンチェスターだからイギリスの物語なのかと勘違いしていました。マンチェスター・バイ・ザ・シーとはアメリカ合衆国のマサチューセッツ州にある港町です。
映画を見たらアメリカの港町を象徴するかのごとく素敵な雰囲気の街並みでした。