年間100冊以上の小説、新書、哲学書などを読むエディターが、あらゆる出版社からこの夏におすすめする最高の一冊(ナツイチ)を選びます。
ちなみにナツイチとは?
集英社文庫「夏の一冊フェア」のこと。今年は6月23日(木)~9月30日(金)の間、全国の参加書店約5,500店で実施。
1991年より「夏休みに一冊本を読もう」という趣旨で開始したキャンペーンで、2016年で26回目を迎えます。
今年のイメージキャラクターはモデルの中条あやみと俳優の田辺誠一。
集英社は本当に透き通るようなハーフの子を起用しました。
こんな美しくかつ本を読む女子高生が果たして現実にいるのかどうかはさておき、「夏に本を読む女性像」をうまく作りあげましたね。
それでは、今回の記事通り、「夏の一冊【ナツイチ】」を紹介したいと思います。
スタイルは「ナツイチ」と同じ。
ジャンルごとに分けて本を紹介します。
- 勇気がもらえる旅へ
- 優しさの旅へ
- 自分探しの旅へ
- 冒険の旅へ
- 知の旅へ
- 笑いの旅へ
- 青春の旅へ
- 考える旅へ
それでは「勇気がもらえる旅へ」からご紹介します。
勇気がもらえる旅へ
旅をする木(星野道夫)
広大な大地と海に囲まれ、正確に季節がめぐるアラスカ。1978年に初めて降り立った時から、その美しくも厳しい自然と動物たちの生き様を写真に撮る日々。その中で出会ったアラスカ先住民族の人々や開拓時代にやってきた白人たちの生と死が隣り合わせの生活を、静かでかつ味わい深い言葉で綴る33篇を収録。
大学生の時に、同じ専攻の先輩から薦めていただいた大切な一冊。
中学生の時に、アラスカの写真を見て、ここに行きたいと思い、留学。都会で生まれ育った筆者がアラスカの自然の豊かさを語る、つまり現代社会に生きる私たちの目線から見たアラスカをも見えてくる。なので、1ページ、1ページに悟りのように学ぶことがある。
自分の視野の狭さを痛感して、もっと別の世界が自分の知らないところで動いている。その自分の小ささを知って、世界の大きさも知って、なんだかもっと前に進みたいと思える勇気の出るすごい作品。
優しさの旅へ
千羽鶴
鎌倉円覚寺の茶会で、今は亡き情人の面影をとどめるその息子、菊治と出会った太田夫人は、お互いに誘惑したとも抵抗したとも覚えはなしに夜を共にする……。志野茶碗がよびおこす感触と幻想を地模様に、一種の背徳の世界を扱いつつ、人間の愛欲の世界と名器の世界、そして死の世界とが微妙に重なりあう美の絶対境を現出した名作である。
社会人になって初めて読んだ川端康成の傑作。決して前半では主役でない「千羽鶴」の着物を着た女性のイメージが物語を支える。なんというか、千羽鶴柄の着物の鮮やかなイメージが物語を読み続けること自体を支え続ける。壊れそうな登場人物たちの感情が究極のところで千羽鶴のイメージに支えられているというか。なんかこの作品は本当にすごい。こんなに感情を繊細に書いた作品ってあるのかな、あったら素直に読みたい。
茶人の師匠、師匠の息子、弟子の愛欲によってたらいまわしにされた名器を、その関係から解き放つという最後の優しさがぞっとするほど本当に好き。ぞっとするほど好き。
自分探しの旅へ
古都
捨子ではあったが京の商家の一人娘として美しく成長した千重子は、祇園祭の夜、自分に瓜二つの村娘苗子に出逢い、胸が騒いだ。二人はふたごだった。互いにひかれあい、懐かしみあいながらも永すぎた環境の違いから一緒には暮すことができない…。古都の深い面影、移ろう四季の景物の中に由緒ある史蹟のかずかずを織り込み、流麗な筆致で描く美しい長編小説。
双子である千重子と苗子。生まれは一緒だが、育った環境は違う。暮らしてきた環境が正反対でも、二人の間に芽生える姉妹という感情と行動は読んでいて和やかな気持ちになる。二人の中にある二つの自分、計4人の自分が京都の風情を背景に、静かに前へ足を進めてゆく。
冒険の旅へ
遠野物語・山の人生
数千年来の常民の習慣・俗信・伝説には必ずや深い人間的意味があるはずである。それが記録・攻究されて来なかったのは不当ではないか。柳田の学問的出発点はここにあった。陸中遠野郷に伝わる口碑を簡古かつ気品ある文章で書きとめた「遠野物語」、併収の「山の人生」は、そうした柳田学の展開を画する記念碑的労作である。
岩手県遠野地方に伝わる逸話や伝承をまとめたもの。
柄谷行人が柳田國男論としてまとめた「遊動論」も面白い。
神隠しや座敷童、オシラサマや河童など一つの地方にこんなにも言い伝えがあるのかというぐらいの伝承が書かれている。柄谷行人も著書で詳しく言及したのだが、かつては山に「山人」がいたらしい。人間とは言葉も異なるが、人間がご飯を差し出すと、次の日に薪を大量に家の前においてくれるなど、人間社会のようにわずらわしい関係を持たない別の社会があって、それが見直されていたりする。
遠野に限らず、深い山の奥に冒険へ行くと、まだ知らない世界が日本にも残っているかもしれない。
知の旅へ
フランケンシュタイン
若き科学者ヴィクター・フランケンシュタインは、生命の起源に迫る研究に打ち込んでいた。ある時、ついに彼は生命の創造という神をも恐れぬ行いに手を染める。だが、創り上げた“怪物”はあまりに恐ろしい容貌をしていた。故郷へ逃亡した彼は、醜さゆえの孤独にあえぎ、彼を憎んだ“怪物”に追い詰められることになろうとは知る由もなかった―。天才女性作家が遺した伝説の名著。
メアリー・シェリーという人間は本当に恐ろしいものを書いたと読書中から思った。たとえばあなたが別の惑星に突然訪れたとする。あなたは、自分が他の生物とは違うということがどれだけ恐ろしいことか知る。こういう自分と他者の隔たりを、究極的に突き詰めたものがこの本。だから、この本を読んでいて、自国と他国の政治的関係とか、もっと大きなことを自然と考えさせられる。
小説なのに、哲学書を読んだ気持ちになる。
笑いの旅へ
三島由紀夫レター教室
職業も年齢も異なる5人の登場人物が繰りひろげるさまざまな出来事をすべて手紙形式で表現した異色小説。恋したりフラレたり、金を借りたり断わられたり、あざけり合ったり、憎み合ったりと、もつれた糸がこんがらかって…。山本容子のオシヤレな挿画を添えて、手紙を書くのが苦手なあなたに贈る枠な文例集。
大学、大学院と一番読んだ作者が三島由紀夫。この本は三島のウィットのエッセンスがつまっている本。電車に乗って読んでたらきっと吹き出してしまうようなことも。
「切腹」とか「ゲイである」とかで一見過激派的な面が取り上げられるけど、結婚していて二人も子どもがいる。三島のエッセイを読むと、非常に理性的な人間だとわかる。理性的すぎるからこそ、その逆のものに惹かれるのだとわかる。本当に頭がよすぎるのです。そんな人が手紙を書くとどうなるか。さあご覧あれ。
青春の旅へ
シッダールタ
シッダールタとは、釈尊の出家以前の名である。生に苦しみ出離を求めたシッダールタは、苦行に苦行を重ねたあげく、川の流れから時間を超越することによってのみ幸福が得られることを学び、ついに一切をあるがままに愛する悟りの境地に達する。――成道後の仏陀を讃美するのではなく、悟りに至るまでの求道者の体験の奥義を探ろうとしたこの作品は、ヘッセ芸術のひとつの頂点である。
求道者であるシッダールタは、決してひとところにいて悟りを開くのではなかった。住み慣れた安全な環境を捨て、様々な場所へと旅する。時には商売で成功し、そして失敗も味わう。ギャンブルにのめりこみ、また失敗もする。麻薬中毒にもなる。女にも溺れる。でも失敗から這い上がり、次々と物事の真理を突き詰めてゆく。そしてついに、ある場所で最後に悟く。
青春時代に安定を捨ててあらゆる経験をしようと町を出たシッダールタの生き方を、今でも見習いたい。
考える旅へ
ソクラテスの弁明・クリトン
自己の所信を力強く表明する法廷のソクラテスを描いた「ソクラテスの弁明」、不正な死刑の宣告を受けた後、国法を守って平静に死を迎えようとするソクラテスと、脱獄を勧める老友クリトンとの対話よりなる「クリトン」。ともにプラトン(前427‐347年)初期の作であるが、芸術的にも完璧に近い筆致をもって師ソクラテスの偉大な姿を我々に伝えている。
プラトンの作品の中でも、「国家」とか他の作品より短く、主題がはっきりしていて読みやすい。だが内容は相当濃い。
一般に「無知の知」で有名だけれども、それ以上に印象に残っている話が「クリトン」にある。
ソクラテスが死刑を間近にして牢獄で老友クリトンと話す。クリトンは皆ソクラテスには生き残って欲しいと思っている。なので脱獄すべきだとすすめる。実際に、脱獄は簡単な状況で、他国で生きることもできる。でも、ソクラテスはどう考えるか。。。
ぜひ読んでほしい本。
写真はすべて集英社HPより
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