三菱一号館美術館で開催中の『オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき』の感想&おすすめポイントとはー
この記事では、現在東京駅近くの三菱一号館美術館にて開催している『オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき』の感想や、おすすめポイント、行くべきかどうか⁉︎などをお伝えします。
『オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき』:会期と時間
2月4日(土)ー 5月21日(日)※月曜休み
会期は3ヶ月とちょっとです。まだまだ東京のビル街は風が強くて寒いですがイルミネーションが映えますよね!あと少ししたら3月です。もう少し待って訪れれば春の日差しを感じることもできるでしょう。ナビ派の絵画的にも春がおすすめの時期でしょうか。
10時00分ー18時00分(金曜日と第二水曜日は20時まで)
金曜日の仕事終わりとか空いていておすすめです。
ちなみに、私は休日の夜に訪れました。意外と空いてましたよ。
会場
三菱一号館美術館
東京駅丸の内南口から歩いて5分くらいです。
チケット
一般:1,700円
前売り券が1,500円です。
詳しくは:『オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき』
ナビ派を2行でまとめると?
19世紀後半に形成された絵画の派であり、ナビとはヘブライ語の「預言者」という言葉からきています。絵画の秘密結社的性格を持っていました。
絵画の特徴はポール・ゴーギャンの総合主義の影響を受けています。
ポールのゴーギャンの総合主義とは?
19世紀半ばからフランスを中心に感覚的に現実を描きとる印象主義が発生しました。
しかし、1880年代になると印象派の中にも個性の違い、様式の違いが明確になり、ある意味アナーキーな時期が訪れます。
その中から、代表的な画家が4人新しく登場します。彼ら4人が絵画の中心だった時代、それを「後期印象主義」と呼びます。
4人の画家とは、ポール・セザンヌ、ジョルジュ・スーラ、ポール・ゴーギャン、フィンセント・ファン・ゴッホです。
特に、ポール・ゴーギャンは印象主義の感覚的な現在描写に反対し、鮮やかな色彩で単純化された輪郭の中を平塗りする総合主義という様式を確立しました。
フランスのブルターニュでゴーギャンから絵画を学んだポール・セリュジエが、パリに戻り、印象主義を脱する革新的かつ実験的な様式、つまり総合主義を友人たちに伝えたことから、ナビ派が生まれます。
『オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき』では最初にゴーギャンの絵画が紹介されますが、それはナビ派を生んだきっかけとなったのがゴーギャンだからです。
ゴーギャンなしではナビ派はなかったのです。
ちなみに、ゴーギャンはこのあとさらに西洋絵画から遠ざかり、1891年以降タヒチなど南太平洋の島々に移り住みます。
ナビ派の良さとは?
『オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき』は非常に素晴らしい展覧会だったと思います。
題名に「果たして行くべきか?」と書きましたが、行くべきです。
それはナビ派の良さが十二分にわかる展覧会だったからです。
ナビ派は19世紀と20世紀をまたいで活動しています。
19世紀末はご存知の通り、ビアズレーの挿絵やアルノルト・ベックリンの絵画に代表される世紀末的な芸術が流行しました。
この世紀末的な流れに影響を与えたのが象徴主義です。
ゴーギャンに影響を与えた象徴主義とは?
19世紀後半、それは産業革命に代表されるように科学と機械の時代です。実利的なもののプライオリティが上がり、芸術も卑俗化してゆきます。
そういった流れのアンチとして、人間の存在に対する深い精神性、夢などが注目され、内面の世界、ミステリーな主題を色という視覚的に感じられるもので表現しようとしたのが象徴主義です。
代表的な画家がギュスターヴ・モローです。
象徴主義と印象主義の違いは?
象徴主義と印象主義は同じ時代にあって中身は全く異なります。
印象主義は感覚的に現実を描き取ろうとしたのに対し、象徴主義は目には見えない内面の世界、つまりミステリアスな世界を目に見える形で象徴的に描こうと試みました。
ラファエル前派という名は絵画好きなら聞いたことがあるはず。ラファエル前派を代表する画家ジョン・エヴァレット・ミレイの「オフィリア」は象徴主義を代表する絵画です。
シェークスピアの文学「ハムレット」を主題にルネサンスの画家に倣った入念な細部表現で神秘の世界を描き出しました。
ナビ派が最も影響を受けたゴーギャンは印象主義の影響を受けつつ、象徴主義のフランス人画家ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌの影響を受けています。
このピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌが実は壁画家として活動しており、壁という典型的な平面性を意識した神秘的な作品を描きました。
ゴーギャンが平面性を意識したのは、シャバンヌの影響が強いのです。
平面性と象徴主義の融合の極致がナビ派
シャバンヌ、ゴーギャン、ナビ派をつなぐ平面性、象徴主義。
ゴーギャンはあまり神秘的なテーマはえらびませんでしたが、ナビ派は世紀末芸術の影響もあり、退廃的だったり、日常に潜む闇や、同じく日常に潜む神秘的な主題を描くようになりました。
つまり絵画は色の塗り合わせであるという平面性と、表には出てこない内面性の融合、その極致を描いたのがナビ派なのです。
色で日常に潜む内面性を上手に表現している絵画がフェリックス・ヴァロットンの「ボール」です。
左端の黒い影がボールを追いかける少女を飲み込むような場面を描いています。このあと、この少女に何が待ち受けているのでしょうか…右側の明るいカラーに左から黒という色をじわじわと伸ばすことで日中に潜む恐怖を上手に表現しています。
ピエール・ボナールの神秘的なキュートさ
また、ナビ派の絵画というと、ピエール・ボナールの描く女性を思い浮かべる人も多いでしょう。
見てどんな印象を受けるかというと、宗教画の中にいるような神秘さを味わいます。同時におとぎ話の中にいるようなメルヘンチックな気分にもなります。
可愛さともつながるのでしょうか。デザインではなく絵画なので何かを描いているのですが、描く対象があたかもキャラクターや絵本の挿絵の登場人物のように感じるのです。
では、このいわば「メルヘンチックな神秘さ」はなぜ生まれるのでしょうか。
2つ理由があります。
1つ目に主題の選択です。
20世紀の初頭、第一次世界大戦までをフランスでは「ベル・エポック」と言います。
日本語に直すと、「美しい時代」です。
ナビ派が活動していたフランスはとても安定した時期でした。
私服を着たビーナスなど、日常に神秘な対象がまぎれ込んできます。描く対象がとても可愛いのです。
2つ目に絵画の描き方です。
ナビ派といっても様々な画家がいて、色々な特徴がありますが、多くの作品に共通して言えるのが色のべったりした平塗り、そして厚い輪郭です。
輪郭がはっきりしている。これがどういう印象を私たちに与えるのかが重要です。
私たちが現実で目にするものたちにはっきりした黒い輪郭はありません。
ナビ派の絵画は逆です。輪郭があることで、この世のものではない感覚を味わいます。
描かれている女性は現実の女性でなく、物語に登場するようなキャラクターなのです。
ボナールの描く女性を見るだけでもかなり楽しめますよ!
まとめ
色がこんなに力を持っているのか!と驚くと思います。これがナビ派の魅力です。
この後の美術の流れは、フォーブィスムや抽象表現主義のように、対象がもはや識別できなくなり、色が氾濫してゆきます。
静謐さを失わずに色の力を利用したナビ派は19世紀と20世紀、両方の時代を象徴しているのです。