劇団四季「恋におちたシェイクスピア」感想〜映画との比較を中心に〜
みなさんこんにちは。23日に上川一哉&山本紗衣主演の劇団四季「恋におちたシェイクスピア」を観てきました。
あらかじめ言っておきます。
「この舞台、絶対に観に行った方が良いですよ!」
いやーただただ面白かった。そして、感動した...
面白かった理由を3つにまとめると。
■作り手側【役者・脚本家・プロデューサー】の舞台裏がどれだけスリリングなことかわかる
■シェイクスピア作品とストーリーとの一致点がいくつも見つかる
■円形劇場の簡易な舞台セットが想像力をはためかせる
主にこの3つです。
それでは、ひとつずつわかりやすく解説してゆきます。
面白かった3つの理由
舞台裏のドタバタがリアル
まず、ストーリーを時系列でご紹介します。
時はエリザベス朝。女王を中心に、上流階級では観劇が流行っていたが、女性が役者になることはまだ禁じられていた...
①シェイクスピアが戯曲「ロミオと海賊の娘のエゼル」を上演するためにオーディションを開催。
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②演劇を愛してやまない女性ヴァイオラが男装してオーディションに参加。ロミオ役をゲット。
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③謎の人物ケントを追ってシェイクスピアと劇作家の友人マーロウは、レセップス卿の家に侵入
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④シェイクスピアがヴァイオラに一目惚れ。
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⑤ケントがヴァイオラだと知ったシェイクスピア。二人は結ばれる。
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⑥しかし、ヴァイオラは政略結婚の相手とアメリカに行かなければならなくなる
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⑦「ロミオとジュリエット」の上演でロミオをシェイクスピアが演じるも、ジュリエット役の少年が声変わりジュリエット役不在
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⑧ヴァイオラが結婚式を抜け出し、ジュリエット役を演じる。
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⑨ヴァイオラはシェイクスピアの才能を独り占めし、奪ってしまうことを恐れて結婚相手とアメリカへ。
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⑩シェイクスピアはヴァイオラをモデルに「十二夜」を執筆する。
⑧の「ヴァイオラが結婚式を抜け出し、ジュリエット役を演じる」
ですが、今までロミオを演じていたヴァイオラがジュリエット役を急遽演じることになります。
いきなりジュリエット役を演じたヴァイオラですが、見事に演じきります。
急遽代役が必要になって、ヴァイオラが登場。見事に演じきる。このドタバタ感と、「ヴァイオラは果たして演じられるのか?」という臨場感がマジでたまらない。
特に、作り手として演劇に携わったことのある人なら、より親近感を覚えられると思います。
主演が「今日は熱でクラクラする...どうしよう。でも舞台に出ないといけない!」なんて状況になる。
で、出演したらいつもよりうまい演技をしてくる。
これ、舞台だとよくある話です。
ピンチから生まれるスリリングさ。観客を前にして失敗が許されない臨場感。これこそ、「演劇をする」中毒性です。
作り手だけしか基本的には味わえない演劇の中毒性を感じられる...なかなかないですよ。こんな作品。
シェイクスピア作品との関連性を探すのが楽しい
「恋におちたシェイクスピア」は、シェイクスピアがヴァイオラとの出会いを通して、いかにして駄作「ロミオと海賊の娘のエゼル」が後世に残る「ロミオとジュリエット」になったのかが描かれます。
そして、ラストシーンではアメリカに去ってゆく愛しいヴァイオラのことを想い、シェイクスピアはヴァイオラをモデルに『十二夜』を執筆するのです。
でも、そもそも「ヴァイオラという名の女性が『ロミオと海賊の娘のエゼル』に出るため男装した」という「恋におちたシェイクスピア」のストーリー設定は、『十二夜』というシェイクスピア作品があったから生まれたのですよね。
さらに、なぜ「ロミオとジュリエット」のストーリーを大きく取り上げたのか?
なぜなら、シェイクスピアの後世に残る多くの名作が生まれるのは「ロミオとジュリエット」執筆以降だからでしょう。シェイクスピアにとって転機になった作品だと考えられるのです。
キャラクターやストーリーが出来上がった理由をサスペンスのように解読してゆく。「アハ体験」がとても面白いのです。
観客の想像力を信じた演出
非常に簡素な円形劇場のセットが舞台めいいっぱいに設置されています。
この簡素さが良かった!!!
「恋におちたシェイクスピア」は、劇中劇があったり、幽霊が出たりと抽象的な演出がいくつかあります。舞台セットがリアルだと、抽象的な演出やストーリーが陳腐なものに見えてしまいがちです。
木製の簡素なセットにより、観客の想像力を喚起させる演出になっています。
すると、自然と「最後の紙吹雪演出はきっとシェイクスピアのつむぐセリフの数々なのだろう」と色々想像をはためかせることができます。
あと個人的な感想ですが、セットを見るとロンドンにあるグローブ座をとても懐かしく感じました。少しロンドンに訪れた気分になれるかもしれませんね。
映画との比較
原作となる映画も観ましたが、ストーリーやセリフは原作に比較的忠実に作られていました。
細かいところだと、
■ヘンズロウが足を焼かれている最初のシーン。
■ヴァイオラとシェイクスピアがいい感じになるときに、「お代官様風」に服を脱がすシーン。
など。
一方で、映画と違うシーンは。
■クリストファー・マーロウとシェイクスピアの関係性が濃い。
■吃りのシーンが多い。
など。
とくに一番大きな違いはシェイクスピアとクリストファー・マーロウの関係です。
映画ではシェイクスピアとヴァイオラの関係性でストーリーが進みます。
舞台ではシェイクスピアとマーロウ。シェイクスピアとヴァイオラの関係性。つまり、二つの車輪でストーリーが進んでゆきます。
映画では、マーロウは酒場でシェイクスピアに「ロミオと海賊の娘のエゼル」の助言を与えるだけでした。
舞台では、シェイクスピアがヴァイオラと仲良くなれたのも、かすんでいた芸術の才能を再び目覚めさせたのも、すべてマーロウがきっかけです。
だからこそ、舞台版のネタバレになりますが、シェイクスピアはラストで死んだマーロウの亡霊と再開し、さらなるインスピレーションをもらいます。
つまり。
■映画:いかにしてシェイクスピアが「十二夜」を生み出したか。
■舞台:いかにしてシェイクスピアが後世に残る作品を「ロミオとジュリエット」執筆後に誕生させたのか。
根本的には、このようにテーマ性が異なります。
キャスト
スタッフ
【まとめ】
観終わった時に「これは劇団四季じゃないと、ここまで感動できなかったな」と思いました。まだまだチケットが余っているので、ぜひ観に行ってみましょう!!!
参考:公式HP