今年の各アワードに必ずと言っていいほどノミネート&受賞している作品がミュージカル映画「La La Land」。
すでにニューヨーク映画批評家協会の作品賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞の音楽賞を受賞し、受賞はせずとも監督賞や作品賞で必ずノミネート果たしている作品だ。
《予告動画》
すでにアメリカでは12月8日から上映がはじまっている。興行収入も注目度も2016年公開の映画の中で、他を圧倒するような爆発的な勢いを見せている。
参考:‘La La Land’ Could Be the Year’s Most Radical Box Office Hit
どうやら注目度は高いらしい、しかし実際に作品の出来はどうだろうか。
映画を見ていない私からしてみれば、この時点で評価を作品の出来を確かめる指標となるのは興行収入ではない。興行収入が良く、注目度が高くてもつまらない作品は数え切れないくらいある。
重要なのはアワードでの受賞回数と、映画評価サイトの点数だ。
そこで、この記事では、「アワード」「映画レビューサイト」この2つの評価から、本当に「La La Land」が注目度ほどの実力をともなった作品なのか調べてみたいと思う。
アワードの評価:ゴールデングローブ賞
12月12日(日)にゴールデングローブ賞のノミネート作品が発表された。対象は2016年内に公開された映画である。授賞式は来年1月8日にラスベガスで行われる。
一般的にアカデミー賞の前哨戦として考えられるゴールデングローブ賞だが、大きく異なるのが海外の映画業界に携わる外国人ジャーナリストによって選ばれるという点である。
つまり、作品の完成度への評価をすることは可能だが、美術や視覚効果など映画技術への評価は行っていない。つまり、純粋に作品の出来が問われる賞だけあって、アカデミー賞の選考への効果も大きい。
では、今回発表されたゴールデングローブ賞に「La La Land」は何部門でノミネートを果たしたのだろうか。
9部門中7部門でノミネートを果たす
ゴールデングローブ賞はアカデミー賞とは異なりTV部門と映画部門で分かれている。さらに、作品賞や役者に与えられる賞では、「ドラマ」部門と「コメディ・ミュージカル」部門で分かれている。
コメディ・ミュージカル部門で受賞できる作品は9部門。今回「La La Land」は9部門中、助演男優賞と助演女優賞を除く7部門でノミネートされた。
受賞された7部門は以下の通りである。
- 作品賞(コメディ・ミュージカル部門)
- 監督賞
- 脚本賞
- 主演女優賞(コメディ・ミュージカル部門)
- 主演男優賞(コメディ・ミュージカル部門)
- 作曲賞
- 主題歌賞
前回のゴールデングローブ賞で最多のノミネートを果たしたのが「キャロル」で5部門。
「La La Land」はそれを2部門上回る7部門でのノミネートを果たしている。
2011年に公開されたミュージカル映画「アーティスト」は6部門でノミネートされ、アカデミー賞では5部門でオスカーを勝ち取った。
《Kcur》
受賞の発表は来年1月だが、すでにヴェネチア国際映画祭で女優賞を獲得したエマ・ストーン(主演女優賞)、LA映画批評家協会賞で受賞を果たした作曲賞、NY映画批評家協会賞でも受賞した作品賞、そしてNY、LAどちらのアワードでもノミネートを果たした監督賞や脚本賞は受賞の可能性が高いだろう。
「アーティスト」の5部門受賞を超えられるかはまだ分からないが。少なくとも、今の状況から考えれば「アーティスト」レベルの面白さは保証できると言っていい。
映画レビューサイトの評価:平均点92点
次に指標となるのが映画レビューサイトの評価。レビューサイトが重要だと言える最も大きな理由は、アワードでは現れない観客の生の評価を知ることができる点である。
ここで評価を確かめるサイトが「Rotten Tomatoes」。映画レビューサイトの中でも最もメジャーで、レビュー数が多いサイト。
では、「Rotten Tomatoes」の評価を見てみよう。
- 批評家:95%
- 観客:89%
「Rotten Tomatoes」の場合、映画が面白いと思う人の%が表示されている。つまり、この場合観客の89%が「La La Land」に肯定的な評価をしていると言える。
では、「肯定的な評価をしている人が89%いる作品」とはどの程度の面白さなのだろうか。
※私が以前に書いた「ミュージカル大全集」は過去から現在まで、すべてのミュージカル映画を「Rotten Tomatoes」の評価順にランキング化した記事である。面白いミュージカルを探している人はぜひ作品選びの時に見返してみると、いい作品に巡り会えるだろう。
例えば、1961年に公開され、10部門でオスカーを獲得した「ウエスト・サイド・ストーリー」は84%だった。
では、アカデミー賞5部門の受賞を果たした「アーティスト」はどうだろう。
批評家部門では97%と高評価だが、観客部門は87%だった。現段階では「アーティスト」を超える評価を観客から得ていることになる。
次は「レ・ミゼラブル」。エディ・レッドメインやヒュー・ジャックマンら名だたる俳優が出演し、現代で最も観られているミュージカルだと私は思っている。その「レ・ミゼラブル」の評価は、観客部門で79%だった。
劇団四季やブロードウェイでロングランし続けている人気ミュージカル「オペラ座の怪人」でも84%で「La La Land」には届かない。
それでは、ブロードウェイを原作としない作品の場合どうだろうか。例えば2001年に公開され、アカデミー賞8部門でノミネートを果たした「ムーラン・ルージュ」。なんと観客部門では89%で「La La Land」と同率の評価だった。
話はそれるが、一般的にブロードウェイ作品を映画化する上でハードルとなるのが世界観の移行だ。ミュージカルを舞台で先に見ている人にしてみれば、当然映画の評価は厳しくなる。舞台版というフィルター越しに観る映画版は、相当鮮明な印象を観客に与えなければ、原作を超えることはできない。そういう点では「ムーラン・ルージュ」には舞台版がないという利点があり、またユアン・マクレガーとニコール・キッドマンというミュージカル初心者の役者を起用し、映像の美しさも相まって、ブロードウェイミュージカルと映画で表現するミュージカルとの差別化が上手にできた作品である。
話を戻そう、しかし同率だった「ムーラン・ルージュ」でも専門家の目はごまかされないのか批評家部門で76%だった。
果たして、「La La Land」を超えるミュージカル映画はないのか。
いや、ミュージカル映画の歴史は深く、「La La Land」を観客部門、批評家部門とも超える作品は確かにある。
しかし、それはどれもミュージカル映画のレジェンドと呼ばれている作品だ。
例えば、オードリー・ヘップバーン主演で1964年に公開され、作品賞含むアカデミー賞8部門で受賞した「マイ・フェア・レディー」。
この作品は、批評家部門96%、観客部門90%と1%ずつ「La La Land」を上回っている。公開後50年以上経っても評価が高いままで変わらない本物のミュージカル映画である。
「マイ・フェア・レディー」をさらに上回るのがジーン・ケリー主演「雨に唄えば」である。評価はミュージカル映画で最も高く、批評家部門では100%、観客部門では95%と別次元の評価を受けている。
その他にも、フレッド・アステア主演「トップ・ハット」やジュリー・アンドリュース主演の「サウンド・オブ・ミュージック」「赤い靴」「屋根の上のバイオリン弾き」など伝説的なミュージカル映画が上回った。
《Amazon》
しかし、2000年以降の作品ではビョーク主演の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」しか上回る作品はなかったのだ。
《OKMusic》
つまり、現段階では2000年以降に制作されたミュージカル映画の中で、5本の指に入るほどの内容だと公言しても問題無いレベルの作品だと言えそうだ。
特に、2010年以降では一番の「面白い」「おすすめ」できる作品だと断言しよう。
「La La Land」はハリウッド黄金期のミュージカル映画をオマージュした作品だと言われている。
つまり、「NINE」や「オペラ座の怪人」のような劇場ありきのミュージカル映画ではなく、どちらかといえばフレッド・アステアが主演している映画のように、ミュージシャンやダンサーなどといった特別なシチュエーションを必要としない男女の恋愛像をミュージカル仕立てで描いた作品だ。
最近の話題になるミュージカル映画は舞台が19世紀のパリだったり、白黒だったりと観客がストーリーに入り込むのに一つハードルを超える必要があった。
しかし、「La La Land」は私たちと同じ現代という時間軸を生きる二人の男女が描かれている。彼らの思いや会話が歌として、つまりミュージカルとして表現されるので、今までミュージカル映画はなんだか難しそうと避けていた観客にも楽しめる作品になっている。
日本での公開は2017年2月24日金曜日
日本での公開は2017年2月24日。26日にはアカデミー賞が発表される。
どんな賞をとっていても、または受賞を逃していたとしても、賞の数と作品の面白さが完全に比例するわけではない。実際に2000年以降批評家&観客から最も評価されている「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」はひとつもアカデミー賞を受賞していない。
どんなことがあれ、2010年代で一番面白いミュージカル映画は「La La Land」なのだ。