『スイミング・プール』や『8人の女たち』など2000年以降数多くのヒット作を生み出してきたフランソワ・オゾン監督
ゴダールを除けば日本では最も知られる現役のフランス映画監督です。
では熱狂的なファンを持つオゾン監督の作品の中で、最も海外から評価されている作品はなにか―
今回の記事では、海外の評価を通して《いま最も見るべきオゾン作品》を発表します。
フランソワ・オゾン (1967- フランス・パリ)
1967年フランス・パリ生まれ。フランスの国立映画学校で映像制作を学んだ後に、いくつかの短編が評価され1998年『ホームドラマ』で長篇映画デビュー。2002年にはカトリーヌ・ドヌーブらフランスの有名女優たちを起用したミュージカル映画『8人の女たち』が銀熊賞を受賞する。また、近年は同性愛などセクシュアリティの問題に触れた作品が多く、自身も同性愛者であると告白している。
シャーロット・ランプリング、リュディヴィーヌ・サニエを起用した作品が多いことでも知られている。
それでは、フランソワ・オゾン監督の作品を評価の高い順にご紹介します。
今回作品を評価するにあたり参考にしたのが海外最大の映画レビューサイト「Rotten Tomatoes」です。
1位は2015年公開『さざなみ』でアカデミー主演女優賞にノミネートしたシャーロット・ランプリングの作品。
88.5点 まぼろし
あらすじ
マリーとジャンは結婚して25年になる50代の夫婦。子どもはいないが幸せな生活を送っている。毎年夏になると、フランス南西部・ランド地方の別荘で過ごしていた。今年も同じようにバカンスを楽しみに来た。昼間、マリーが浜辺でうたた寝をしている間、ジャンは海に泳ぎに行く。目を覚ましたマリーは、ジャンがまだ海から戻っていないことに気づく。気を揉みながらも平静を装うマリー。しかし、不安は現実のものとなってしまう。ヘリコプターまで出動した大がかりな捜索にもかかわらずジャンの行方は不明のまま。数日後、マリーはひとりパリへと戻るのだったが…。
- 公開年:2000
- キャスト:シャーロット・ランプリング、ブリュノ・クレメール
86.5点 危険なプロット
解説
フアン・マヨルガの戯曲を原作にして放つサスペンスドラマ。類まれな文才を秘めていた生徒と彼に物語の書き方を指導する国語教師が、思わぬ事態を引き起こしていくさまを見つめていく。ユーモアを絡めながら日常に存在する狂気や人間が抱える闇を浮き上がらせる、オゾン監督の卓越した演出手腕に引き込まれる。
あらすじ
作文の添削ばかりで刺激のない毎日に嫌気が差している高校の国語教師ジェルマンは、クロードという生徒が書いた同級生とその家族を皮肉った文章に心を奪われる。その秘めた文才と人間観察能力の高さに感嘆したジェルマンは、彼に小説の書き方を指南する。かつて諦めた作家になる夢を託すようにして熱心に指導するジェルマンだが、クロードの人間観察は次第に過激さを増すように。そして、その果てにジェルマンを思わぬ事態に引きずり込んでいく。
- 公開年:2012
- キャスト:ファブリス・ルキーニ、エルンスト・ウンハウアー
- 主な受賞:最優秀映画賞(サン・セバスティアン国際映画祭)
77.5点 8人の女たち
あらすじ
1950年代のフランス。クリスマスを祝うため、雪に閉ざされた大邸宅に家族が集うこととなった。ちょうどその日の朝、メイドのルイーズが、一家の主マルセルの部屋へ朝食を持っていくと、彼はナイフで背中を刺され死んでいた。外から何者かが侵入した形跡はない。電話線は切られ、雪で外部との連絡を完全に絶たれた8人の女たち。祝祭気分は一転、彼女たちは疑心暗鬼を募らせていく。やがて、互いの詮索が始まる。そして、次々と彼女たち一人ひとりの思惑や秘密が暴露されていく…。
- 公開年:2002
- キャスト:カトリーヌ・ドヌーヴ、イザベル・ユペール、エマニュエル・ベアール、リュディヴィーヌ・サニエ
- 主な受賞:銀熊賞(ベルリン国際映画祭)
77.5点 ぼくを葬る
解説
余命3か月と宣告された31歳のフォトグラファーが、死に直面したことにより自分自身を見つめ直す姿をつづったヒューマンドラマ。『まぼろし』に続き“死”を題材に取り上げたオゾン監督の分身とも言うべき主人公を、メルヴィル・プポーが演じる。穏やかで静かな語り口と、主人公の心の葛藤を細やかに表現したプポーが印象的。
あらすじ
パリで活躍しているファッション・フォトグラファーのロマンは、ガンで余命3か月だと宣告される。化学療法を拒み、家族や恋人にも病気のことを話さず、たった1人で死を受け入れることを決意する。そんなとき、夫に問題があって子どもができない女性ジャニィと知り合うが……。
- 公開年:2006
- キャスト:メルヴィル・プポー、ジャンヌ・モロー
75.5点 スイミング・プール
解説
『ピーター・パン』のティンカーベル役でハリウッド・デビューを飾った、リュディヴィーヌ・サニエの若く挑発的な魅力と、シャーロット・ランプリングの成熟した大人の女の色香の調和が素晴らしい刺激的な推理劇。南仏プロヴァンスの美しい風景を舞台に繰り広げられる、何ともゴージャスで薫り高き一本。
あらすじ
スランプ中の英国のミステリー作家、サラは、南仏にプール付き別荘を借りる。しかし突然借り主の娘、ジュリ-が現れ、彼女の生活は一変する。
- 公開年:2003
- キャスト:リュディヴィーヌ・サニエ、シャーロット・ランプリング
73.5点 焼け石に水
解説
オゾンが敬愛するドイツの故R・W・ファスビンダーが19歳で書き上げた未発表の戯曲を映画化した哀しくも可笑しい四幕の室内劇。
あらすじ
70年代、ドイツ。20歳の青年フランツは街で中年男のレオポルドに声をかけられ、婚約者アナとのデートをすっぽかして彼の家を訪ねる。そして、二人はそのまま同棲生活を始めるが……。
- 公開年:2000
- キャスト:ベルナール・ジロドー、マリック・ジディ、リュディヴィーヌ・サニエ
72.5点 ムースの隠遁
解説
薬物中毒で亡くなった恋人の子を身籠った女性が、田舎で隠遁生活を送る様子を静かに見つめる。出演は、撮影当時実際に妊娠6カ月だったイザベル・カレ、ルイ=ロナン・ショワジーら。
あらすじ
ルイとムースはお似合いのカップルだったが、ドラッグの中毒に陥っていた。ある日、薬物過剰摂取によりルイが急死。ムースは助かったが妊娠が判明する。薬物中毒の女性の妊娠は危険とされたが、ムースは産む決心をして田舎で過ごすことに。そこへ、ルイの弟ポールがやってくる。ゲイであるポールとの生活は穏やかに流れ、ムースは心が和んでゆく。ある日、ポールはかつて本気で愛していた人が亡くなり、自分が養子でルイとは血縁がないことをムースに打ち明ける。
- 公開年:2009
- キャスト:イザベル・カレ、ルイ=ロナン・ショワジー
- 主な受賞:審査員賞(サン・セバスチャン国際映画祭)
72点 しあわせの雨傘
解説
ジョギングが日課の裕福な妻が、心臓発作で倒れた夫の代わりに雨傘工場を任されたことで意外な才覚を発揮していく人間ドラマ。一人の主婦が問題を乗り越えながら自分の居場所を見つける姿を、コミカルな演出を交えながら描く。ジャージ姿や歌声を披露する大女優カトリーヌのコケティッシュな魅力満載で、涙あり笑いありの女性賛歌に共感必至。
あらすじ
スザンヌは毎朝のジョギングが日課の幸せなブルジョワ妻だったが、ある日、雨傘工場を運営する夫ロバートが心臓発作で倒れ、雨傘工場を切り盛りすることに。亭主関白の夫の下で押し黙る日々を送っていた彼女だったが、子ども、昔の恋人、工場の従業員たちの協力を得て予想外の本能が目覚めていく。
- 公開年:2011
- キャスト:カトリーヌ・ドヌーヴ
70点 彼は秘密の女ともだち
解説
偽りなき自分を受け入れ自分らしく人生を歩む勇気を問い掛けるドラマ。親友の死をきっかけにその夫の秘密を知った平凡な主婦が、奇妙な友情を育む中で人生を輝かせていくさまを描く。原作はルース・レンデル。
あらすじ
親友が死去し気を落としていたクレールは、残された夫ダヴィッドと赤ん坊の様子を見るために彼らの家に行くと、亡き妻の服を着て娘の世話をするダヴィッドに出くわす。彼から女性の服を着たいと打ち明けられ困惑するクレールだったが、やがてダヴィッドをヴィルジニアと呼び夫に内緒で交流を重ねるうちに、クレール自身も女性としての輝きが増していく。
- 公開年:2014
- キャスト:ロマン・デュリス、アナイス・ドゥムースティエ、ラファエル・ペルソナ
68.5点 ホームドラマ
あらすじ
一匹のねずみによって平和な家族が崩壊してゆく様子を描いたブラックドラマ。
- 公開年:1998
- キャスト:エヴリーヌ・ダンドリー、ステファーヌ・リドー
67点 17歳
解説
少女から大人へと変化を遂げる17歳の女子高生の心理とセクシュアリティーをあぶり出す青春ドラマ。不特定多数の男と性交を重ねる名門高校に通う美しい女子高生。ある事件をきっかけにその問題行動が発覚、行動の裏にある少女でも大人でもない17歳の女性の揺れ動く気持ちを描き出す。オゾン監督らしい繊細で鋭い心理描写に心を揺さぶられる。
あらすじ
パリの名門高校に通うイザベルは、バカンス先で出会ったドイツ人青年との初体験を終え、数日後に17歳の誕生日を迎える。パリに戻ったイザベルは、SNSを通じてさまざまな男性との密会を重ねるようになっていた。そんなある日、ホテルのベッドの上で初老の男ジョルジュが発作を起こしそのまま帰らぬ人となってしまう。イザベルはその場から逃げ……。
- 公開年:2013
- キャスト:マリーヌ・ヴァクト、シャーロット・ランプリング
67点 ふたりの5つの分かれ路
解説
あるカップルの姿を追いながら、愛の謎を追う野心作。夫婦の“別れ”から“出会い”までの5つの季節をさかのぼりながら、2人の間に起きた真実に迫る愛のミステリー。
あらすじ
離婚の手続きをしたマリオンとジル。ホテルでお互いの肌に触れても再び愛がよみがえることはなかった。マリオンは立ち去りそして時計は逆に回りだす……。
62.5点 クリミナル・ラヴァーズ
あらすじ
夜の学校にアリスとリュックが現れ、アリスはそのままシャワー室で待つサイードのもとへと向かう。アリスとサイードが抱き合っているところへリュックが遅れてやって来る。リュックはアリスの合図でサイードを刺し殺す。二人は死体を車に乗せ森へと向かい、穴を掘って死体を埋める。森の中で小屋を見つけた二人は食料を盗もうとするが、男に捕まり地下室に閉じ込められる。二人がそこで見たものは……。
- 公開年:1999
- キャスト:ナターシャ・レニエ、ジェレミー・レニエ
47点 リッキー
解説
新しい形の家族の再生物語。ある平凡な一家に生まれた風変わりな赤ん坊を通じて、バラバラだった家族が一つになっていくさまをファンタジックに描き出す。
あらすじ
郊外の団地で娘のリザと二人で暮らすシングルマザーのカティは、単調な日々を送っていた。そんなある日、カティは職場の新人パコと恋に落ち、パコは母子と共に暮らし始める。やがて、カティとパコの間に子どもが誕生しリッキーと名付けられるが、ある日リッキーに異変が起きる。
- 公開年:2009
- キャスト:アレクサンドラ・ラミー、セルジ・ロペス
41点 エンジェル
解説
1900年代初頭のイギリスを舞台に、幼いころから上流階級にあこがれ、16歳で人気作家としてセレブの仲間入りを果たした女性の夢と現実を描く人生ドラマ。ゴージャスな作品世界の中に、女性ならではのたくましさやしたたかさ、さらには悲哀を浮かび上がらせるオゾン流女性映画。
あらすじ
1900年代初頭のイギリスの下町で、母親とともにほそぼそと暮らすエンジェルは、あふれんばかりの想像力と文才が認められ、16歳にして文壇デビューを果たす。幼いころからあこがれていた豪邸“パラダイス”を購入し、ぜいたくで華美な暮らしを始める。そんな中、彼女は画家のエスメと恋に落ちるが……。
- 公開年:2007
- キャスト:ロモーラ・ガライ、シャーロット・ランプリング
1位は『まぼろし』、最下位は『エンジェル』でした。
個人的にはミュージカル映画『8人の女たち』、大人なムードの作品が見たい人には『まぼろし』、ミステリーが好きな人には『スイミング・プール』や『危険なプロット』をおすすめいたします。