前回記事の続きです。
昔から好きだったモーリス・ベジャールの「くるみ割り人形」をDVDで観て感動し、面白い舞台ってこういうことかと気づいたことを書いています。
https://youtu.be/rcBOpurN92E
前回は「一流」をテーマに書きました。
今回は「コラボ」です。
この舞台のなかでYvette Hornerというアコーディニストが登場します。
今年で92歳になる本物のアコーディニストです。
ベジャールというバレエ界の一流の作品のなかに、イヴェット・ホーマーという一流のアコーディニストが登場します。
このコラボがいいんですね。まず、イヴェット・ホーマーさんがかっこいい。
「雪の女王」のシーンで登場するのですが、
圧倒的なオーラで場を支配しています。
よく、小劇場とか大きな劇場でもそうですが、演奏家が登場したりします。でもああいうところで登場する演奏家って、基本的に音大生とか、セミプロみたいな人で音楽家としては有名でないひとが多い。
つまり演奏はある程度うまいのだけど、脇役でしかない。
イヴェットさんの場合は、もうどセンターを陣取っています。雪の女王というひとつの役になりきっています。
このくらいの圧倒的存在感が欲しい。ほんとうにかっこいい。
で、これが面白い舞台と、面白くない舞台を決めるひとつの要素なのは間違いないのです。
このくるみ割り人形はかなり演出家ベジャールの意思が強い作品です。というか伝記的作品です。
ベジャールほどの個性豊かな演出家であれば、ベジャールの伝記を見続けられますが、でももって1幕だと思います。
そこで、1幕の最後「雪の女王」の場面でイヴェットを登場させて場を一新させます。
これもベジャールの才能です。
ベジャールの意図する舞台に、まったく別の世界を取り入れる。異化効果というのでしょうか。
本を読んでいたら、いきなり次のページにスクリーンがあって、映像が流れ出すような、舞台をみていた観客のなかにあった続き物のストーリーに別次元の要素を取り入れる。
でも、これはやはり本当に一流の人しか作り出せない異化効果です。
本当に有名な音楽家だけでもだめです、ある意味オーラが必要です。
理解を良い意味で妨げ、別の世界へ連れて行ってくれる作品って本当に素晴らしいと思います。
もはや賭けの世界
ベジャールはイヴェットの持つ世界観を利用しているのではなく、賭けています。
イヴェットに舞台を任せているのです。
こういう舞台上に見えるハラハラ感は観客にも伝わります。いままで順調に進行していたベジャールの物語が一気に知らない世界へと変化する。
音楽家が舞台上で役を演じるハラハラ感ってありますよね。でもそのハラハラ感とは違うんです。むしろこのハラハラ感は期待感です。
2幕でもイヴェットは登場します。
でも特に、この「雪の女王」の場面でストーリーを急に切り裂く感じはたまらないですね。ハラハラ感。
また、コラボ作品の「この舞台どうなってしまうの?」という感覚はもちろんお客さんの好奇心をそそります。
なので、コンサートでも、コラボ物のチケット販売数は単品でやるのとは比にならないほど売れるのです。
もちろん、ジャンルの異なる一流同士が好ましいですが、一流でなくとも好奇心ぐらいはかきたてることができます。
ア・ラ・カルト~役者と音楽家のいるレストラン~
そういえば、私が好きな舞台に高泉淳子さん主演の「ア・ラ・カルト~役者と音楽家のいるレストラン~」という舞台があります。1989年から毎年やっているのでファンがものすごく多いです。
また、舞台中にワインが観客にふるまわれるという珍しい舞台です。
私が好きなのは、生の音楽家、しかもオーラがすごい方々が舞台上に登場するからです。
ヴァイオリニストの中西俊博さんが音楽監督なのですが、かっこいいです。
舞台は観客を呼んだもの勝ち
言い忘れていましたが、舞台は観客を呼んだもの勝ちの世界です。
本は後に残りますよね。音楽も今はCDという形で残ります。
でも舞台は残らない。映像で残してもわざわざ見直す必要がある。なので、観客をメディアと捉えるべきです。(悪い評価だと一気にチケットが売買サイトに流れますが。)
そのためにも、話題性のある舞台をやったほうが良いのですが、一番はコラボです。最近レミゼでコゼット役に乃木坂46の生田絵梨花が抜擢されましたが、あれも乃木坂46というブランドのコラボです。ルイ・ヴィトンのバッグに村上隆のデザインを用いたのも同じことです。
例えば「アラカルト」の場合、コラボすると、音楽を好きな人も来れば高泉淳子さんのファンもきます。料理が好きな人もきます。
この舞台はもちろん満員ソールドアウトなのですが、何度もアンコール公演を行っています。
これも情報を周りの人に伝えるファンがいるからです。
それにしても高泉淳子さんはすごい。役者もでき、劇作もできる。そして歌える。こういう人がもっと取り上げられれば日本の劇場に多くの人が行くのに!と思います。