「メリー・ポピンズ リターンズ」の衣装に隠された秘密をデザイナーの言葉から紐解く!
今回は、2019年2月1日に日本で公開される1964年公開「メリー・ポピンズ」の続編「メリー・ポピンズ リターンズ」の衣装の秘密を、デザイナーであるサンディ・パウエルの言葉から紐解いてゆきます。
目次
サンディ・パウエル
経歴:1960年ロンドン生まれのデザイナー。
今までに、「恋におちたシェイクスピア」「アビエイター」「ヴィクトリア女王 世紀の愛」でアカデミー衣装デザイン賞を獲得。
また、そのほかに、「ヒューゴの不思議な発明」「キャロル」でアカデミー賞ノミネート。ディズニー実写映画「シンデレラ」の衣装デザインも手がけている。
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「メリー・ポピンズ」はデザイナーが人生で初めて見た映画だった
「私が最初に見た映画ーずっと昔のことです」こう語るのは「メリー・ポピンズ リターンズ」で衣装デザインを担当したサンディ・パウエル。彼女にとって初めて見た映画が1964年に公開されたジュリー・アンドリュース主演「メリー・ポピンズ」でした。
「メリー・ポピンズの衣装を思い出すわ。ずっと私の心を魅了し続けてきたの。それだけじゃない、いまではあの歌に込められた全ての歌詞の意味が実感として伝わってくるの。」
3度オスカーを受賞(しかも9度ノミネート)している著名デザイナー、サンディ・パウエルにとっても、あのメリー・ポピンズの衣装を手がけるのは極めて大きな仕事だったようです。
エドワード朝にインスパイアされた1930年代のスタイル
物語は、前作から20年後以上経ち、ジェーンもマイケルも大人へと成長しています。マイケルには亡き妻との子供が3人おり、しかも世界大恐慌の最中お金も尽き、家も売却されるという局面に立たされます。
そんなバンクス家が苦境の中、歳をとることなく、依然と変わらぬ美しく、チャーミングな姿で現れたメリー・ポピンズ。ただ、コートや帽子は前作よりもよりシックなデザインになっています。
「メリーのシルエットはみんなの記憶に深く残っていますよね。印象的なメリーの姿をイメージさせながらも、全く同じ姿であることは望みませんでした。1910年代に着ていた衣装と同じものを、1934年になっても着させたくはなかったからです。」
こうパウエルは説明します。
1930年代はエドワード朝のスタイルを取り入れた衣装が流行した年でもあり、ふくらはぎの裾のあたりや、腰あたりのシルエットにその特徴が見て取れます。
「肩に2重のケープを用いることで、1930年代版の豪華なティアードロングドレスをデザインしました」
「1930年代を表現するために少しモダンでファッショナブルなデザインにしています。また動きも取り入れています。」
また、このティアードが傘で降りてくる姿にもひらめく衣装が優雅さを与えています。
1930年代のポストアールデコのファッションを表現
パウエルはまた、おしゃれな幾何学模様と生地の質感を上手に組み合わせ、1930年代のポストアールデコのファッションを表現しています。
シェブロン模様のジャケットとスカート。手袋と蝶ネクタイに水玉模様。
「この衣装には、子供達を惹きつけるグラフィックと形が用いられています。それを暗に示すのではなく、明確に表現したいと思いました。」
また、写真では見えにくいですが、波のような形状をした菱形のボタンにも注目です。
帽子には小鳥の代わりに魚
メリーはバスタブのような日常的な家庭用品を通して幻想的な世界へとマイケルの子供達を連れてゆきます。前作も絵の世界に入るとカラフルなコスチュームへと早変わりしましたが、今作でも別の世界へゆくと、その世界に合った素敵な衣装に変わります。
バスタブから航海の旅へと繰りだす際には、縞模様や水玉模様を基調としたエドワード調の水着へと変わります。
「現実の世界で来ている青いドレスよりもさらに明るい色味を増した青いコスチュームをメリーは着ます。また、帽子には鳥の代わりに魚が乗っています。」
アニメーションで描かれたような鮮明な衣装
また、前作「楽しい日曜日」や「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」などの名曲が生まれたあの19世紀風のアニメーションシーンも登場します。
アニメーションシーンと実写をシームレスに調和させるため、パウエルは独創的なアイディアを思いつきます。
「アニメーションで描かれたような衣装にしないはずがないでしょ?」
そのために、パウエルとペインティングチームは、コットンとキャンバスにさまざまな絵のテクニックを使った骨の折れる試行錯誤を経ています。
最終的には、水彩画を用いたテクニックで、衣装と背景の世界観を上手に統合させているようです。
アニメーターとパウエルのやり取りを繰り返し、ダンスシーンのイメージが固まる
メリーとジャック(リン・マニュエル・ミランダ演じる、前作のバートのような役)は、また別の世界で紫とピンクを組み合わせた縞模様の衣装で歌とダンスを披露します。
後ろには似た衣装を着たアニメーションの動物たちもいます。この衣装もパウエルが手がけました。
「これは役者の衣装を最初にデザインして、その後にアニメーターが動物や背景の世界を作り始めました。」
また、パウエルは豚や象の衣装作りのために、1800年代のファッションイメージをアニメーターに渡しています。
「アニメーターが動物たちのコスチュームのデザインを私に送り、それを手直しするという流れでした」「『もっとこうすればよく見えるのでは?』とアドバイスをして、それに対してレスポンスがあるという風にアイディアが行き来していました」。
ダンスシーンでは複雑すぎないパターンの方が背景のアニメーションと合っているため、他のアニメーションシーンと同じくドットとストライプは引き継ぎながら、色味をより強くさせる方向へと落ち着きました。
1920年代フラッパースタイルを生かしたトプシーの衣装
また、メリーのいとこトプシーの衣装にもパウエルのこだわりが見て取れます。
参考にしたのは、1920年代のフラッパースタイル、特に女優のルイーズ・ブルックスから、エディス・シットウェルのターバンスタイルまで、またナンシー・クナードからインスパイアされたベークライト・ブレスレットをトプシーは両腕にはめています。
しかし、トプシー演じるメリル・ストリープからもパウエルにあるアドバイスをしていました。
「私は本当はターバンと大きなジュエリーでトプシーの髪を見えないようにしたかった。」「でもメリルと会った時に、彼女が髪を少し出したいと言って『その髪の色にしたいのよね』と私の髪を指したの」とパウエルは笑いながらトプシーのオレンジ色のタスルボブヘアの由来について語りました。
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子供の成長の早さを表現するためあえて衣装を小さく作る
バンクス家に話を移すと、ジェーンは美しいハイウエストウールのズボン、ツイードプレイド、そしてベレー帽の姿で労働組合の一員だった母親の跡を引き継いでいます。
「私は、ジェーンが男性社会から解放された女性であるというイメージを望みました。そのために必要なのは、彼女にズボンをはかせることでした」こうパウエルは説明します。
「彼女はいつもどこかで走り回っていて急いでいます。スカートでそれをすることはできないと思いました。私は彼女が動き回り、力強く生きることができるよう、自由に動き回れるスタイルであることを望みました。」
マイケルは子育てに奮闘しながらも、正気の抜けた仕事人です。
「マイケルは、親しみのある、芸術家風の父親として描かれています。家では少しだらしなく、疲れ切っているようです。」
マイケルの来ているシェブロン織のカーディガンについて、
「彼は銀行でスーツを着て働いていますが、正直なところ銀行で働くことを望んではいません。しかし、最後に状況が好転すると、カンカン帽とブレザーでハンサムな姿になります」
とパウエルは語りました。
バンクスの子供たちは、エンドウ豆色のコート、フェアアイルニット、小ちゃな帽子、そして少しハイウエストのヘリンボーンのショートパンツなど愛らしい衣装を着ています。
「現代の子供たちに本物の羊の毛でできたニットを着てもらうのは困難になりました。とても繊細なものだからです。合成品は着心地もよくて、伸縮性があります。」「でも、子役たちは皆とてもプロフェッショナルでしたね。」
また、パウエルは一年分の成長の早さを表現するために、子供達の服を少し小さめに作っています。
「彼らの姿が完璧すぎるように見せたくなかったの」と語ります。
4度目のアカデミー賞受賞も期待
自分が初めて見た映画のキャラクターたちの衣装を制作できて「とても興奮したわ」と答えるパウエル。
「初めてこの映画のオファーがきたとき、断るなんてことは一切思い浮かばなかったわ。」
放送映画批評家協会賞では衣装デザイン賞にもノミネートされています。サンディ・パウエル4度目のアカデミー賞受賞も期待されます。
日本では2019年2月1日に公開される「メリー・ポピンズ リターンズ」。
歌やダンス、ストーリーだけでなく、シーンを表現するために考え尽くされた衣装にも注目ですね。
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本記事参考サイト:https://fashionista.com/2018/12/mary-poppins-returns-movie-costumes-outfits