海外で最も評価される三島由紀夫の小説はなにか――
この記事では、本当に今読むべき三島由紀夫の小説をお伝えします。
1925年に生まれ、戦争を学生時代に経験し、激動の時代である昭和の文化を動かしてきた三島由紀夫。
海外でも三島の影響は大きく、英語に限らずフランス語やイタリア語、中国語、韓国語などに翻訳され、世界中でその存在を知られている日本小説家です。
フランスの本屋さんに行くと「Neige de printemps(春の雪)」が外国作家のところに置いてあります。また、大学の授業で日本文化を研究する際の参考図書として用いるのが三島小説「憂国」です。
つまり世界において、三島の小説を読むことは日本の文化を知ることなのです。
ですので、日本人である限り一度でもその文学に触れてみるのはいかがでしょうか。
そこで、この記事では最も評価される三島文学を紹介します。
参考にしたのは、15年間にわたりあらゆる英語圏の大学シラバスを集計し、授業の参考図書をまとめたWEBサイト「The Open Syllabus Project」。
大学の授業で用いられている三島作品とは、まさに「日本の文化」を知るための教科書とも言えます。
では、1位からご紹介します。
1位 憂国/Patriotism
2.26事件後に将校が切腹する場面を克明に描いた作品。小説の情景を鮮明に描き出した三島主演の映画作品も有名。死とエロスの完全な融合がテーマ。
海外の人にとっては未知の世界である「切腹/ハラキリ」。そこに美学を見出した短編小説を「日本人の文化論」として参考にするのは当然であり、さらに三島の切腹によってその鮮度は永久的なものに。
2位 金閣寺/The Temple of the Golden Pavilion
1950年に金閣寺が寺の青年僧によって焼失した実際の事件を元にして書いた小説。焼いたのは日本文化のモニュメントである金閣寺ですが、もっと大きく「美とは何かー」という問いに考えさせられる作品です。
3位 潮騒/The Sound of Waves
三島が愛したギリシャ神話の影響を受けた作品。と解説では言われていますが、地方の漁村を舞台にした若い漁師と少女の恋物語なので、魚の匂いとか、磯の生ぬるい匂いとかもしてくる日本的な印象も受けます。だからこそ漁師の若く鍛えられた美しい肉体と精神が最後にピカッと輝きます。
吉永小百合主演で映画化もされている有名な作品です。
4位 午後の曳航/The Sailor Who Fell From Grace With the Sea
読んでから何年も経ちますが、最後の文章が忘れられないインパクトのある作品です。
たくましい肉体を持った船員に憧れを持つ少年が主人公。その船員が未亡人の母親と結婚しようとしたときに少年がある事件を起こす。海外では映画化もされている作品です。
5位 仮面の告白/Confessions of a Mask
「小説」という名前の仮面を通して自己の内なる欲望や美意識、精神を露出した作品。簡単に言えば「小説の主人公を通して自分の本性を出してみました」ということになります。
人間の欲望って様々で、ゲイと言われている三島ですが、本当にゲイなのか真相はわからない。でもだれでも同性に憧れることってありますよね。女性なら「宝塚の女優なら抱かれみたい」、男性なら「クリスチャン・ロナウドの肉体ならOK」みたいな感覚です。そういう小さな人間の欲望とか意識をSNSやコスプレで肥大化させるという行動は現代の人でもしています。現代は小さな欲望を表現する社会の寛容力が高まっています。
三島も同じです。仮面である自分自身の肉体や当時のメディアである小説を通して、自己を描くのが三島のやりかたなのです。そう考えると、三島の生き方が現代にも通じてくるので、彼の人生を探るとなかなか面白い。三島は今の人と同じか、それ以上にいろんなことしてますよ。
なのでこの小説の題名「仮面の告白」とは「仮面である自分を通して告白する」と置きかえられます。
以上5位までの作品でした。ちなみにそれ以外の作品ですが、
6位、7位に遺作となる「豊饒の海」シリーズがランクインします。
6位 奔馬/Runaway Horses
「豊饒の海」シリーズでは主人公がシリース1から4まで転生します。必ず20歳で死んで次の巻で別の性別や国籍で生まれ変わります。
「奔馬」はシリーズ2。シーズン1「春の雪」よりも大学の授業で扱われている理由は、こちらも小説の最後で日の丸が昇る瞬間に切腹をとげるからだと思います。海外の人は相当「切腹/ハラキリ」に興味があるようですね。
7位 春の雪/Spring Snow
「豊饒の海」シリーズ1。妻夫木聡さん主演で映画化もされています。
個人的には一番好きな作品です。悲劇的な恋愛を美しく描いた作品で肩を並べられる作家は、日本ではも「心中天網島」などを書いた近松門左衛門ぐらいではないでしょうか。
また日本で有名な「禁色」は15位でした。
さて、ここまでに紹介した全ての作品に共通点があることに気づきましたでしょうか?
実は、全ての表紙に「赤と白のコントラスト」もしくは「丸」が用いられています。
明らかに、海外の人は三島文学を通して「日本」を見ています。
では、以前に紹介した川端康成はどうか。
川端の場合は作品のイメージがそのまま表紙となっています。
ここで紹介した三島文学を読めば、海外の人が日本文化のどこに注目し、またどのような印象を持っているかが分かるでしょう。
また、小説は長くて読めない、導入には難易度が高すぎるという人向けに2つ作品を紹介します。
一つ目は、「近代能楽集」
日本伝統芸能である「能」のあらすじを現代に置きかえた作品です。わずか250ページのなかに作品が8つ入っています。単純計算して1作品30ページ。
もともとは能のあらすじですが、現代に置きかえているので、完全に現代のお話。読みやすいです。戯曲なので会話文だけです。さらっと読めますが内容は深くて面白い。
二つ目は「三島由紀夫レター教室」
もし三島由紀夫が手紙を書くならこんな風にするという面白い小説。三島由紀夫がどれだけウィットに富んだ天才だったかがわかります。吹き出して笑うレベルです。
「有名人へのファン・レター」「肉体的な愛の申し込み」「年賀状の中へ不吉な手紙」「真相をあばく探偵の手紙」「陰謀を打ち明ける手紙」「余計なお世話をやいた手紙」「結婚申し込みの手紙」「処女でないことを打ちあける手紙」などなど設定がまず面白すぎる。
ぜひ手紙を書くときの参考にしてください。手紙が帰ってくるかは保証しません。
また、三島由紀夫ファンの人で、すでにここに紹介した作品は読んだという人には
泉鏡花「縷紅新草」をおすすめします。
三島が「神仙の域に達している」と語った作品。泉鏡花が死ぬ2ヶ月前に書いた遺作。
「薄紅梅」という作品のなかに含まれた短編です。この領域にまで達したいが不可能と三島は言っています。三島が考える「小説の極地」です。