映画「ムーンライト」の魅力とはなにか?
この記事ではアカデミー作品賞を獲得したバリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」の面白さや評価の高い理由について迫りたいと思います。
アカデミー賞で8部門にノミネートし、作品賞含む3部門で受賞を果たしたバリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」。「La La Land」が作品賞を受賞するという大方の予想を覆し、見事作品賞に輝きました。
「La La Land」も素敵な作品なのですが、今年は評価の高い作品がずらりと並び、どの映画が作品賞を獲得しても驚かない展開でした。
アカデミー作品賞ノミネート作品
- 「ムーンライト」
- 「メッセージ」
- 「フェンス」
- 「ハクソー・リッジ」
- 「最後の追跡」
- 「Hidden Figures」
- 「ラ・ラ・ランド」
- 「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」
- 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
その中でも、「ムーンライト」が受賞できた理由とは一体何なのでしょうか?!
この記事では、海外のレビューを参考に、「ムーンライト」が評価の高い理由をご紹介します。
『ムーンライト/Moonlight』公開日
2017年3月31日(金)~
アカデミー作品賞の受賞により世界中の注目が集まったことで、日本でも公開日が早まりました。
2017年3月31日(金)より全国で上演開始です。
上映映画館
東京では以下の劇場で上映中です。
- TOHOシネマズシャンテ
- TOHOシネマズ新宿
- TOHOシネマズ日本橋
- TOHOシネマズ六本木ヒルズ
- 楽天地シネマズ錦糸町
- TOHOシネマズ西新井
- 109シネマズ二子玉川
- イオンシネマ板橋
- T・ジョイSEIBU大泉
- ユナイテッド・シネマとしまえん
- 立川シネマシティ
- TOHOシネマズ南大沢
- イオンシネマむさし村山
他の都道府県は公式サイトより
「ムーンライト」が評価の高い理由
アカデミー賞の授賞式でおそらく過去最大のミスである「La La Land」と「ムーンライト」の作品賞渡し間違い。
@Rolling Stone
一旦オスカー像は大方の予想通り「La La Land」のプロデューサーに渡されたものの、アカデミーの主催者が間違いに気付き、オスカー像は「ムーンライト」のプロデューサーに手渡されることになりました。
これは過去最大級のアカデミー賞におけるミスでしょう。
しかし、バリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」に作品賞が渡されたことで、ハリウッド映画の今までスポットライトが当たらなかった点に注目されることになったのです。
では、「ムーンライト」が多くの批評家、そして観客の感動させ、また心に刺激を与えた理由とは?
ここからは、「ムーンライト」に関する情報を簡単に、分かりやすく説明します。
「ムーンライト」は、黒人男性シャロンの人生を3つの時代に区切って描いた物語
「ムーンライト」は、黒人男性シャロンの人生を3つの時代に区切って描いた物語です。
主人公であるシャロンは、3人の俳優によって演じられます。
子供時代はアレックス・R・ヒバート、10代の時期はアシュトン・サンダース、大人になったシャロンはトレバンテ・ローズが演じます。
また、シャロンの親しい友人であり、シャロンの3つの時代に登場するケヴィンは、ジャレル・ジェローム、ジェイデン・パイナー、アンドレ・ホーランドによって演じられます。
3つの時代を1つの作品で描くというのは非常に演劇的な発想ですね。
ストーリーは治安の悪いマイアミからはじまります。
第1期では、幼いシャロンは薬物のディーラーであるフアンと出会い「自分の人生を決めるのは周りではなく自分だ」と教わります。
第2期で、シャロンはまだ10代の高校生であり、同性愛に芽生え、さらに不安定な家庭が追い打ちをかけます。
子供時代、青年時代そして成人してからのシャロンを描くのですが、マイアミでの過酷で貧しい暮らしはすべての時代に共通しています。薬中で子供のことなど気にしない母親との関係、そして幼い頃からの友人ケヴィンとの関係も全ての時期に渡って描かれます。
物語は、子供の時からシャロンが大人になるまでを描くのですが、3つの時代すべてにシャロンの人生を決定づけるような出来事が起こるのです。
例えば、母のポーラは薬中であり、また高校での荒れた生活がシャロンに大きな影響を与えます。
生まれ持った同性愛者という特質と、アメリカでも貧しいコミュニティという環境の中で、自分自身を探してゆく。厳しい環境の中で、マイノリティが生きてゆく実態が描かれているのが「ムーンライト」なのです。
アイデンティティの本質を描いている
映画「ムーンライト」が素晴らしい点は、1人の黒人男性が年を重ねるごとに増す同性愛の実態を描いた点ではありません。
「ムーンライト」を見ると白人男性がいまだにゲイの文化では支配的であることを痛感させられます。しかし、ゲイのカルチャーがマイノリティであるという一般的かつ通俗的な観念を描いただけでは「ムーンライト」はここまでの評価を得られなかったでしょう。
それ以上に「ムーンライト」が興味深い点は、1人の男性を通してアイデンティティがどのように形成されてゆくのかが克明に記録されているところです。
シャロンが1人の男性として育つまで、彼の人生は自分ではコントロールできないような出来事によって左右されてきました。
どのようにして私たちは周りにいる人や、身近に起こる出来事から影響を受け、自己の姿が出来上がるのかを「ムーンライト」は教えてくれるのです。
自分ではコントロールできない出来事が起こるのはどんな人にも共通しています。いつの間にか思いもよらぬ岸にたどり着いているのが人間です。これが事実なのです。
脇役の見事な演技
また、「ムーンライト」の見どころの1つとして優れた脇役が挙げられます。薬物のディーラーであるフアンを演じたマハーシャラ・アリはアカデミー助演男優賞に輝きました。
@The Hollywood Reporter
@www.wsj.com
音楽界で成功をおさめるシンガーソングライターのジャネール・モネイやシャロンの母親役を演じるナオミ・ハリスも評価も高く、ナオミ・ハリスはアカデミー助演女優賞にノミネートしています。
@www.nytimes.com
サウンドが美しすぎる
3つの時代は、決して早まることなく官能的とでも言うぐらいゆったりと描かれます。
そして、サウンドが美しい。アリアやヴァイオリンの音色が人間の本質を描く「ムーンライト」という作品に絶妙にマッチしています。
今年のアカデミー作品賞ノミネートを映画レビューサイトの視点から評価!
今年のアカデミー作品賞にノミネートした映画を海外最大の映画レビューさいとロッテン・トマトの評価でランキングにしました。
85.5点 フェンス
@Global News
- 監督:デンゼル・ワシントン
- キャスト:デンゼル・ワシントン、ヴィオラ・デイヴィス、スティーヴン・ヘンダーソン、ミケルティ・ウィリアムソン
- 批評家の評価:93点/観客の評価:78点
アカデミー賞
受賞:助演女優賞/ノミネート:作品賞、主演男優賞、脚色賞
ゴールデングローブ賞
受賞:助演女優賞/ノミネート:主演男優賞
解説
アメリカの劇作家オーガスト・ウィルソンによる、ピューリッツァー賞を受賞した戯曲「フェンス」を、10年にリバイバル上演された舞台版で主演し、トニー賞主演男優賞を受賞したワシントンが、自らのメガホンで映画化。
あらすじ
1950年代の米ピッツバーグを舞台に、元プロ野球選手でいまはゴミ収集員として働くトロイと妻ローズ、そしてその息子たちと、アメリカに生きる黒人家族の人生や関係を描く。
映画.com
87点 マンチェスター・バイ・ザ・シー
@The Movie Diorama
- 監督:ケネス・ロナーガン
- キャスト:ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ、カイル・チャンドラー、ルーカス・ヘッジズ
- 批評家の評価:96点/観客の評価:78点
アカデミー賞
受賞:主演男優賞、脚本賞/ノミネート:作品賞、監督賞、助演男優賞
ゴールデングローブ賞
受賞:主演男優賞/ノミネート:作品賞、監督賞、助演女優賞、脚本賞
放送映画批評家協会賞
受賞:主演男優賞、脚本賞、若手俳優賞
解説
俳優マット・デイモンがプロデューサーを務めた。主人公リーの絶望と再生を、時折ユーモアを交えながら丁寧に紡ぎ出した珠玉の人間ドラマ。
あらすじ
アメリカ・ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリーは、突然の兄の死をきっかけに故郷マンチェスター・バイ・ザ・シーに戻ってきた。兄の遺言で16歳の甥パトリックの後見人となったリーは、二度と戻ることはないと思っていたこの町で、過去の悲劇と向き合わざるをえなくなる。
88点 メッセージ
@ComingSoon.net
- 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ「ブレードランナー 2049」
- キャスト:エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、マイケル・スタールバーグ
- 批評家の評価:94点/観客の評価:82点
アカデミー賞
受賞:音響編集賞/ノミネート:作品賞、監督賞、脚色賞、録音賞、撮影賞、編集賞、美術賞
ゴールデングローブ賞
ノミネート:主演女優賞、音楽賞
放送映画批評家協会賞
受賞:SF&ホラー映画賞/ノミネート:主演女優賞、監督賞
解説
テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」が原作。球体型宇宙船で地球に飛来した知的生命体との対話に挑む、女性言語学者の姿が描かれる。
あらすじ
突如地上に降り立った、巨大な球体型宇宙船。謎の知的生命体と意志の疎通をはかるために軍に雇われた言語学者のルイーズは、“彼ら”が人類に<何>を伝えようとしているのかを探っていく。その謎を知ったルイーズを待ち受ける、美しくそして残酷な切なさを秘めた人類へのラストメッセージとは―。
88点 ラ・ラ・ランド
@www.lalaland.movie
- 監督:デミアン・チャゼル「セッション」
- キャスト:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、ジョン・レジェンド、J・K・シモンズ
- 批評家の評価:93点/観客の評価:83点
アカデミー賞
受賞:監督賞、主演女優賞、撮影賞、美術賞、作曲賞、歌曲賞/ノミネート:作品賞、主演男優賞、脚本賞、編集賞、衣装デザイン賞、音響編集賞、録音賞
ゴールデングローブ賞
受賞:作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚本賞、主題歌賞、作曲賞
ヴェネツィア国際映画祭
受賞:主演女優賞/ノミネート:金獅子賞
解説
『セッション』のデイミアン・チャゼルが監督と脚本を務めたラブストーリー。ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが主役。
あらすじ
何度もオーディションに落ちてすっかりへこんでいた女優志望の卵ミアは、ピアノの音色に導かれるようにジャズバーに入る。そこでピアニストのセバスチャンと出会うが、そのいきさつは最悪なものだった。ある日、ミアはプールサイドで不機嫌そうに1980年代のポップスを演奏をするセバスチャンと再会し……。
シネマトゥデイ
89点 ムーンライト
@The Huffington Post
- 監督:バリー・ジェンキンス
- キャスト:トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ナオミ・ハリス、ジャネール・モネイ、マハーシャラ・アリ
- 批評家の評価:97点/観客の評価:81点
アカデミー賞
受賞:作品賞、助演男優賞、脚色賞/ノミネート:監督賞、助演女優賞、作曲賞、撮影賞、編集賞
ゴールデングローブ賞
受賞:作品賞/ノミネート:監督賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞
シカゴ映画批評家協会賞
受賞:作品賞、監督賞、助演男優賞/ノミネート:助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、作曲賞、撮影賞、編集賞
解説
ブラッド・ピットが製作陣に名を連ね、さまざまな映画祭・映画賞で高評価を得た。マイアミの貧困地域に生きる少年が成長する姿を、三つの時代に分けて追う。監督は、短編やテレビシリーズを中心に活躍してきたバリー・ジェンキンズ。ナオミ・ハリス、アンドレ・ホランド、マハーシャラ・アリなど脇役も実力派俳優がそろった。逆境の中で懸命に生きる主人公に胸を打たれる。
あらすじ
マイアミの貧困地域で、麻薬を常習している母親ポーラと暮らす少年シャロン。学校ではチビと呼ばれていじめられ、母親からは育児放棄されている彼は、何かと面倒を見てくれる麻薬ディーラーのホアンとその妻、唯一の友人のケビンだけが心の支えだった。そんな中、シャロンは同性のケビンを好きになる。そのことを誰にも言わなかったが……。
シネマトゥデイ
89点 LION/ライオン 〜25年目のただいま〜
@IMP Awards
- 監督:ガース・デイヴィス
- キャスト:デーヴ・パテール、ニコール・キッドマン、ルーニー・マーラ、デビッド・ウェナム
- 批評家の評価:86点/観客の評価:92点
アカデミー賞
ノミネート:作品賞、助演女優賞、脚色賞、撮影賞、作曲賞
ゴールデングローブ賞
ノミネート:作品賞、助演男優賞、助演女優賞、作曲賞
放送映画批評家協会賞
ノミネート:作品賞、助演男優賞、助演女優賞、脚色賞、作曲賞、若手俳優賞
解説
『英国王のスピーチ』などのプロデューサー、イアン・カニングが製作に名を連ねた実録ドラマ。幼少時にインドで迷子になり、オーストラリアで育った青年が Google Earth を頼りに自分の家を捜す姿を追う。監督はテレビシリーズや短編などを手掛けてきたガース・デイヴィス。『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテル、『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンらが出演。
あらすじ
インドのスラム街。5歳のサルーは、兄と遊んでいる最中に停車していた電車内に潜り込んで眠ってしまい、そのまま遠くの見知らぬ地へと運ばれて迷子になる。やがて彼は、オーストラリアへ養子に出され、その後25年が経過する。ポッカリと人生に穴があいているような感覚を抱いてきた彼は、それを埋めるためにも本当の自分の家を捜そうと決意。わずかな記憶を手掛かりに、Google Earth を駆使して捜索する。
シネマトゥデイ
89.5点 ハクソー・リッジ
@www.hacksawridge.movie
- 監督:メル・ギブソン「ブレイブハート」
- キャスト:アンドリュー・ガーフィールド、ヴィンス・ヴォーン、サム・ワーシントン、ヒューゴ・ウィーヴィング
- 批評家の評価:87点/観客の評価:92点
アカデミー賞
受賞:録音賞、編集賞/ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞、音響編集賞
ゴールデングローブ賞
ノミネート:作品賞、監督賞、主演男優賞
解説
『ブレイブハート』でオスカーを獲得したメル・ギブソンが監督。第2次世界大戦中に銃を持たずに戦地入りし、多くの負傷した兵士を救った実在の人物をモデルに奇跡の逸話を描く。
あらすじ
第2次世界大戦中、デズモンドは、人を殺してはいけないという信念を持ち、軍隊に入ってもその意思を変えようとしなかった。彼は、人の命を奪うことを禁ずる宗教の教えを守ろうとするが、最終的に軍法会議にかけられる。その後、妻と父の尽力により、デズモンドは武器の携行なしに戦場に向かうことを許可されるのだが......。
シネマトゥデイ
93点 最後の追跡
@IMP Awards
- 監督:デヴィッド・マッケンジー「パーフェクト・センス」
- キャスト:ジェフ・ブリッジス、クリス・パイン、ベン・フォスター、ジル・バーミンガム
- 批評家の評価:98点/観客の評価:88点
アカデミー賞
ノミネート:作品賞、助演男優賞、脚本賞、編集賞
ゴールデングローブ賞
ノミネート:作品賞、助演男優賞、脚本賞
解説
家族の土地を守るため銀行強盗を繰り返す兄弟と、彼らを追う年老いたテキサス・レンジャーを描いたクライムドラマ。
あらすじ
舞台は不況にあえぐテキサスの田舎町。タナーとトビーのハワード兄弟は、亡き両親が遺した牧場を差し押さえから守るため、連続銀行強盗に手を染める。
慎重派のハワードが練った完璧な計画のおかげで兄弟は次々と襲撃を成功させていくが、刑務所から出所したばかりのタナーの無謀な行動のせいで次第に追い詰められていくが......。
映画.com
93点 Hidden Figures
@IMP Awards
- 監督:セオドア・メルフィ「ヴィンセントが教えてくれたこと」
- キャスト:タラジ・P・ヘンソン、オクタビア・スペンサー、ジャネール・モネイ
- 批評家の評価:93点/観客の評価:93点
アカデミー賞
ノミネート:作品賞、助演女優賞、脚色賞、編集賞
ゴールデングローブ賞
ノミネート:助演女優賞、作曲賞
解説
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」のタラジ・P・ヘンソンが主演し、ドロシー役を「ヘルプ 心がつなぐストーリー」のオクタビア・スペンサー、メアリー役を「ムーンライト」などにも出演している歌手のジャネール・モネイが演じた。
あらすじ
1962年に米国人として初めて地球周回軌道を飛行した宇宙飛行士ジョン・グレンの功績を支えた、NASAの3人の黒人系女性スタッフ、キャサリン・ジョンソン、ドロシー・ボーン、メアリー・ジャクソンの知られざる活躍を描いた伝記ドラマ。
映画.com
日本ではまだ公開が決定していないセオドア・メルフィ監督の「Hidden Figures」が批評家、観客とも高い評価を得て1位に輝きました。
「ムーンライト」は批評家からの評価は「最後の追跡」に次ぐ2位。
一方で観客からの評価は下から3番目。「ムーンライト」の特徴は、なんといってもアーティスティック。激しい出来事があるようで、それは偶然にも大きかった波のように何事もなく消えてゆきます。だから、ドラマティックなアクションや、感動を求める心にはそぐわないかもしれません。
月の光を見るような美しい作品なのです。