月組「カンパニー/バッディ」東京公演感想 | 宝塚版ディズニーパレード
3月30日(金)に宝塚歌劇団月組の東京宝塚劇場公演
「カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-」
「BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-」
を観劇。
※月組公演『カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-』『BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-』初日舞台映像
3回のカーテンコールに、スタンディングオベーションで幕を閉じた初日。
私の感想を率直にお伝えします。
宝塚歌劇団でしかできないことをやってのけた月組「カンパニー」
対極にありそうなものが、実は同じようなものだと思わせる
バレエダンサーとアイドル
芸術とサブカルチャー
バレエとコンテンポラリー
アスリートとお笑い芸人
「カンパニー」という舞台は、
対極にあるような世界観を、白と黒で対立させるのではなく。
むしろ、バレエダンサーが盆踊りをしたり。
アイドルをバレエの舞台に立たせることで。
現代におけるエンターテイメント界のリアルを描いていた。
アイドルたちが、バレエダンサーに
「お前たちは武道館いっぱいにしたことあんのかよ」
と語るのは、見当違いに思えて、的を射ている。
現代ではバレエも一種の娯楽で、
お金持ちの趣味でもなんでもない。
そもそも今ではバルーンでできた人形が芸術の最先端だと言われる時代である。
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ミュージカルに比べてバレエは芸術性が高いと言われていた時代はもう存在しないのだ。
「カンパニー」は、バレエを庶民の側へと引きずり落とす。
いや、これがライブエンターテイメント界のリアルなのである。
それでいて、どちらの世界も違った魅力をもつことを伝える
だからといって、バレエが魅力を失ったわけではない。
むしろ、バレエは、同じエンターテイメントと比較されることにより、
その魅力を引き立たせている。
バレエの美しさ、アイドルの熱狂を、
同じ舞台上で出現させる。
どちらの魅力も観客に伝える。
そんなことができるのは、
あとで説明するが、
宝塚歌劇団しかいない。
バレエ好きの心を満足させる作品
「白鳥の湖」の曲や場面がオープニングなど要所要所で使われる。
バレエ団の運営をテーマに作品だが、
主人公はバレエについてはほとんど知らないサラリーマン・青柳。
青柳の目線で進むストーリーなので、
バレエの基本的な知識が説明される。
バレエを知らない青柳に観客を感情移入させつつ。
バレエファンの心を、
「私は知ってるけどね...」
と満足させる。
一方で、バレエファン。
エンターテイメントの世界で生きる者が。
知っているけど触れない問題。
そう、食えない職業である。
という目を背けたい事実にもスポットを当てる。
「チケットノルマを多くさばいた人が主役になれる」
なんて自虐的なセリフだろうと思った。
宝塚歌劇団も同じなんだ。
この瞬間に、バレエファンだけでなく、
宝塚ファンも、カンパニーの世界に真実味を感じる。
痛切に感じているからだ。
バレエ団員がフラッシュモブをやったり、
アイドルと組んだりと。
非現実的に思えそうなストーリーも展開する。
でも、非現実的には思えない。
そうでもしないと人が入らない世界だというのがエンターテイメントの現実だからだ。
エンターテイメントに関わる人はそれを知っている。
盆踊りをするバレエダンサー、
嘘のようで、本当の話だと思った。
だから、カンパニーは。
バレエの華やかな世界を伝えながら。
それでいて、
バレエ団員とバレエ界のリアルを描き。
さらに、
エンターテイメント界の展望と未来を見せてくれている......
「白鳥の湖」の新解釈はどこから?
「白鳥の湖」という作品には古典バレエと、現代になって再解釈された多くのコンテンポラリーダンス作品がある。
コンテンポラリーダンス版にもたくさんの作品ある。
でも、この作品が一番有名だろう。
マシュー・ボーンの「白鳥の湖(スワン・レイク)」だ。
マシュー・ボーンの「白鳥の湖」は、
男性が白鳥(オデット)を演じており、王子がその白鳥に惹かれる物語。
私は「カンパニー」がマシューの「白鳥の湖」に強い影響を受けているのではと思った。
まず、製薬会社での最初の振付。
重役やその下で働くサラリーマン、OLたちがコンテンポラリーに近い踊りをする。
まるでマスゲームのように。
音ひとつひとつに反応して機械的に動く様は。
マシュー版「白鳥の湖」のオープニング。
城内でのシーンを思い出さないわけがない。
そして、もう一つ類似した点がある。
新解釈「白鳥の湖」は、
ロットバルトと王子が惹かれあう。
まさに、男と男の恋である。
古典の「白鳥の湖」に、
コンテンポラリーの「白鳥の湖」がまじりあう。
「白鳥の湖」の魅力を二重に味わえる。
バレエファンの心をぐっとつかむ作品になっていた。
ここまで書いた「カンパニー」の世界の魅力は、作家の伊吹有喜の小説に由来するものがほとんど。
でも、この小説をどの劇団が上演できるのか?
舞台上で白鳥を演じるコール・ド・バレエ。
アイドル歌手。
個性的な面々。
どれが欠けても、作品はリアルさを欠く。
もし今宝塚歌劇団月組公演「カンパニー」を観なかったら。
今お伝えしたカンパニーの魅力を目で、耳で味わうことは、
今後再演がない限り不可能だと思っている。
宝塚歌劇団は、
宝塚歌劇団でしかできない作品を上演し、
そして、多くのリアルを描ききった。
すごいものを見てしまったな......
そう感強くじる。
バッディは宝塚版ディズニーパレード
「BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-」
どうやら賛否両論ある「バッディ」。
私は、完璧に賛だった。
一言でこのショーを表現すれば、
最近のディズニーパレード型レビュー。
ディズニーファン、宝塚を見たことのない観客は
「BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-」
意外と肯定的なのではと思う。
ポップでサイケ。
ストーリーがあるようで、世界観がぶっとびすぎていて理解できない。
でも面白い。
ぶっとんだ世界から取り残されずに、面白く感じる自分がいる。
これはディズニーの「うさたま」「ひっぴてぃーホッピティー」で味わう感覚そのものだ。
カンパニーは善や悪に白黒つけようといった、哲学を表現しようとしているのではない。
どちらでもない世界を表現しようとしているのかさえ分からない。
ストーリーで人を感動させようとしているのではない。
簡単なストーリーという軸に、鮮やかな衣装、ダンス、歌で観客を楽しませようとしている。
ただ、それだけ。
よく、言われることなのだけど。
真実は笑った瞬間の、その表情に現れる。
深く考えすぎると、作品の世界に取り残されることもある。
だから、絵画でも音楽でも舞台でも、知識は後回し。
まずは吸収されることが大事なのだ。
レビューにストーリーが加わった時......
ちなみに「ヒッピティ・ホッピティ」は、
ミッキーマウスが見つけた秘密のイースターガーデンを舞台にディズニーの仲間たちやイースターバニーと一緒にイースターのお祝いする
という簡単なストーリーがある。
しかし、見た目ははちゃめちゃだ。
しかし、はちゃめちゃに不思議とハマる。
カラフルでポップ、色とりどりの衣装に、ダンスもキャラクターやダンサーによって個性がある。
音楽も耳に残る。
「バニバニ、バーニバニ」
このはちゃめちゃがパレードとして成立しているのは、
ストーリーがあくまでも存在するから。
ストーリーというルールの上で、
はちゃめちゃな世界が目の前を通り過ぎてゆく。
ルールがあるからこそ、はちゃめちゃが「ごちゃごちゃ」にならない。
グーフィーが「遅れちゃう、遅れちゃう」とか言ったり。
ミッキーが「卵はどこ?」とか言いながら一応ストーリーにのっとってることは最後まで伝える。
バッディも一緒。
善と悪に関連したストーリー、シーンというルールがある。
観客はルールに則ってると信じてる。
でも、ぶっとび過ぎて理解できない。
実はあえて理解を超えるレベルの激しい音楽や、振付、衣装を用いることで、五感を超えさせる。
そのはちゃめちゃが「ごちゃごちゃ」にならないのは。
ストーリーが軸になってすすむレビューだからなのだ。
いつものレビューみたく、
お客様に笑顔や目線を送るのではなく、
ストーリーが最後まで存在することで、1つの作品としてまとめている。
ストーリーとして解釈しようと思うと、奇想天外な音楽や振付、衣装で作品が五感を超えてゆく。
理解と破壊の繰り返し。
いつのまにか飲み込まれてゆく...
レビューの本当の終わりは、エトワールの登場
ストーリー仕立ての世界観がエトワールの登場という宝塚レビューお決まりのパターンで破れる。
暁千星の上手い歌を否定しているわけではなく。
エトワールが登場した瞬間に、私の中でもはちゃめちゃで、不思議と深みにはまるレビューは終わってしまった......
ディズニーのパレードにないもの
ディズニーのパレードにないもの。
それは、歌と芝居。
宝塚版には歌も、芝居もある。
「イースター」に代表される類のディズニーパレードを、
宝塚がやったときどうなるのか......
新しい世界へ導いてくれた「バッディ」。
演出の上田久美子。
そして、珠城りょう、愛希れいか、月組のカンパニーに心から拍手を送りたい。
私は「カンパニー」「バッディ」で宝塚歌劇団の持つ可能性に大いに触れた。
以前から、ディズニーパレードやショーの演出家が宝塚を演出し。
一方で、宝塚の演出家がディズニーを演出した作品が観てみたいと思っていた。
「バッディ」でその夢が少しかなったような気がする。
今回の
「カンパニー -努力(レッスン)、情熱(パッション)、そして仲間たち(カンパニー)-」
「BADDY(バッディ)-悪党(ヤツ)は月からやって来る-」
は、今年どんなに良い舞台に巡り合っても。
唯一無二の作品として、会う人みんなに、
「あれは、すごかった」
と語ってゆきたい。