今回は日本のフリースキーヤーがなぜかっこ悪いのか、そして大会で成績を残せないのかを考えてみたいと思います。
そこで、3つの観点から日本のフリースキーを分析しました。
- コーク重視
- トレーニング
- 観点
観点①:コーク重視
ソチ五輪から正式種目になったフリースタイルスキー。その影響も手伝って、日本のスキー場でもフリースタイルスキーヤーが多く見られるようになりました。その結果、オフトレ施設でフリースキーの練習をしている人も増えた気がします。私もその中の一人です。
室内スキー場や、マット、トランポリンなど様々な種類のオフトレ施設があります。その中でも、私は主にウォータージャンプで練習しています。で、何年かやっていると、ふとした瞬間あることに気がついたのです!
それは、練習しているフリースタイルスキーヤーのほとんどには、ある一定の練習パターンがあることです。
遊びとしてのスキーとオフトレとしてのスキーの違い
いきなりフリースタイルスキーの練習内容について語ります。
当然のことですが、初めてウィータージャンプを体験するスキーヤーは「ストレートジャンプ」を最初に練習します。
初めてのウォータージャンプで、いきなり「バックフリップ」とかいきなり「ロデオ」をやっている人はあまりいません。
(フリースキーヤー Satoru Takamizawaさんのロデオ映像)
そして、一番簡単そうに見える「ストレートジャンプ」ですが、初めて飛ぶ人は、それでも安定せずに、乱れた状態で水面に着地します。「ストレートジャンプ」とは実際は一番根底にあるフリースタイルスキーの基礎であり、最も大切なものであり、だからこそ極めようとすれば難易度の高いものなのです。
ストレートジャンプを極めるためには姿勢、踏切のタイミング、オーリーなど多くの要素を一つの滑りの中に詰め込む必要があります。それを体で覚えるためには練習の積み重ねが必要です。
ストレートジャンプを極めたい人はこの動画を参考にしよう
(フリースキーヤー Satoru Takamizawaさんのストレートジャンプ解説)
では、「遊びとしてウォータージャンプを体験している人」と、「オフトレとして冬のゲレンデで立つことをイメージして練習しているスキーヤー」とを見分けるポイントはどこにあるでしょうか。
簡単です、それは「ストレートジャンプ」を跳ぶ量にあります。
「水に飛び込む面白いアトラクションがあるらしいよ」でオフトレ施設に訪れ、遊びでウォータージャンプを跳ぶ人は、基本的にストレートジャンプが不安定なまま360度を回したり、バックフリップしたりします。それはそれでひとつのウォータージャンプの楽しみ方です。水の上でしか体験できないことを楽しんでいるのです。
一方で、オフトレとして取り組んでいる人は、ひたすらに「ストレートジャンプ」の練習をしています。そして、この「ストレートジャンプ」を極めようとする姿勢に、「遊び」と「練習」の違いが生まれます。
オフトレ初心者の練習パターン
そして、「ストレートジャンプ」が安定してくると、横軸の練習をします。例えば「360(1回転)」などです。
360(一回転)を覚えたい人はこの動画を参考にしよう!
(神立フリースキースクール HOW TO 360スピングラブ編)
360くらい回せるようになると、360でグラブの練習をします。しかも、なぜかセーフティーグラブでもテールグラブでもなくミュートグラブに取り組む人がほとんどです。
これは基本的に教えてもらっているコーチの方針です。では、なぜミュートグラブなのでしょうか。それにはいくつか理由が挙げられます。その一つは、体を丸めた姿勢を取り、回転しやすい姿勢に持ち込むためです。
しかし、練習生の中にはセーフティーフラブやテールグラブをしたい人もいると思います。でも、彼らはほとんど盲目的にミュートを練習しています。練習パターンが固定化されているので、基本的に彼らはやりたいことができません。
ちなみに、私はセーフティーグラブが一番スタイルがでると個人的に思っています。理由は2つあります。
- 一つ目は、あまりにもミュートで飛んでいる人が多いからです。
- 二つ目は、素直にセーフティーの方がかっこいいと思うからです。特にアンドレアス・ホートヴェイトやABM(アレックス・ボーリー=マルシャン)のダブルセーフティーグラブはかなり決まっています。
アンドレアス・ホートヴェイトのダブルセーフティー
ABMのダブルセーフティー
※周りで練習している人たちが基本ミュートグラブなのでおそらく私は浮いていると思います。また、レッスンを受けてない人で我流のスキーヤーはテールグラブが多かったりします。
次に練習するのがバックフリップ。そしてコーク720。
そして、バックフリップができ始めると、そこから発展してコーク720になります。※我流の人は、バックフリップからダブルバックに行く人もいます。
バックフリップに挑戦したい人はこの動画を参考にしよう①
(フリースキーヤー Satoru Takamizawaさんのバックフリップ解説)
バックフリップに挑戦したい人はこの動画を参考にしよう②
(フリースキーヤー米谷優さんのバックフリップ解説)
で、バックフリップができると、ほとんどの人がコーク360とかコーク540ではなく、なぜか必ずコーク720の練習に移ります。そして、コーク720までたどり着くと延々とコーク720を繰り返し練習しています。他のエア練習したら怒られるのかな?というぐらいに。
日本は「とにかく綺麗に回ること」、海外では「とにかくかっこよく決めること」。ここに大きな違いがあるのでは。
そして、男子の選手だとコーク720からコーク900、そこにミュートグラブが加わって、最終的にはダブルコーク1080の練習を始めます。
一方で海外の話をしましょう。海外ライダーはコークにこだわらず、とにかくムービーを通して「かっこ良い技を決める」ことが大切なので、他の技の開発やスタイル、完成度を高めます。コークにここまで盲目的にこだわっているのは日本だけです。
世界の主流はコーク?
でも、「世界の主流はコークなのでは?」と疑問を持つと思います。確かにコークは多用されています。
たとえば、【X Games 2016】ビッグエアー種目で優勝したランを観てみましょう。
https://youtu.be/vORiPKH_0L4
この映像は、スイスの新星ファビアン・ベッシュがX Gamesで初優勝した時のランです。
でも、この大会でファビアンが優勝したのには理由があります。それはコンディション 。この日のビッグエアー決勝は雪が降り続いてコンディションが最悪でした。
その中で、とにかくスタイル関係なしに回転数を上げられる選手が上位になりました。そこでトリプルを成功したファビアンが優勝したのです。
単なるトリプルコークを成功しても世界では通用しない!
2015年のビッグエアーはヴィンセント・ガニエのダブルバイオ(ジーニーグラブ)。2014年はヘンリク・ハーローがノーズバターという高度なジャンプテクニックを用いてのトリプルコークで優勝しました。もちろん、両年ともトリプルコーク1260などを決めるライダーがいました。でも、単純に回転数を増やし、綺麗に回り、ピタッと着地するだけでは勝てなかったのです。
X Games 2014 ビッグエアーでのヘンリク・ハーロー(スウェーデン)
https://youtu.be/J-7R4QcSWCI
X Games 2015 ビッグエアーでのヴィンセント・ガニエ(カナダ)
フリースタイルスキーの採点方法はどうなってるの?
次にコークが世界で多様される理由として、フリースタイルスキー競技の採点傾向があります。
回転数が評価される重要なひとつの項目なので、 現状縦3回転が可能な技がコークとロデオしかないから、選手はコークやスイッチでのロデオなどのエアに頼ります。点数を出すのに一番手っ取り早いのが回転数を増やすことなので、多くの選手がトリプルに取り組むのです。
ミスティとかバイオでトリプル(3回転)ができたら、なかなか太刀打ちできないでしょう。でも現在大会で成功した選手はいません。なのでコークに頼るのです。
しかし!近年のX Gamesを見ればわかるように、例えばトリプル決めたからって点数が跳ね上がるわけではないのです。
スタイルが必要なのです。
「スタイル」については最後に詳しく説明します。とにかく、近年のフリースタイルスキーで高得点を取るには、「スタイル」が必要なのです。
ここで視点を変えて、そもそも採点するのは誰か?という点にスポットを当てたいと思います。
大きな大会になればなるほど採点する審判の中に日本人は一人もいません。
つまり、日本人の感覚で盲目的に練習をしていても、海外の大会では通用しないのです。
なので、近年のフリースタイルスキー界の採点基準が、回転数からスタイルへと大きく舵をきっていることを心に留めておいてください。
ズバリ解決策!
ズバリ、回転数だけ上げてても、点数は上がらない問題の解決作をお伝えしましょう。簡単です。
徹底的に海外ライダーのムービーを見て、真似することが高い点数を取るための最短の方法です。
Luca Schülerの2014-15エディット
高い点数をだすための「スタイル」とはなんぞや!を考え、実行すれば良いのです。
極端な話をしましょう。今日本にはびこっている体系的な練習方法は必要ありません。基礎はもちろん大事です、それ以前に個々のスキーヤーが持つ「理想のライダーやラン」に近づくために必要だと思った練習方法を実行すれば良いのです。
国内大会でブイブイ言わせたいならそのままでいいのですが、いつまでも日本人が考える「フリースタイルスキー」で勝負していたら、全く別次元の競技になって、いつまでの採点の対象に入ってこないでしょう。
そして、「フリースタイルスキー」の醍醐味は味わえないでしょう。
観点②:トレーニング
コークを決めることがメインになってしまっている日本では、基本的に「バックフリップ→コーク」という独特の練習ストーリーができあがっています。
これも「日本人の考えるフリースキー」を追求している(今のフリースキーシーンを知らない)からだと思います。
無論、トレーニング方法は個々のスキーヤーのやりたい技で異なります。そして、海外ではライダーそれぞれの異なった個性を伸ばしたり、バイオやコークなど異なるエアを各々の方法で教える人がきちんといます。
残念なことに、日本ではほとんどいません。アメリカのナショナルチームではエアリアルのコーチが教えてたりします。エアリアルというエアを極限まで追求した次元だからこそ教えられるものがあるのです。
日本には本当に第一線で活躍してきたスキーヤーorコーチがいない...
でも、日本にいない。どうしようもないじゃないか...ということにはならないのです。
ではどうすれば良いのかといえば、基礎ができたなら、あとは自分のエアをムービーで撮って、理想とする海外ライダーのエアと比べれば良いのです。日本人でもダブルコークをできる人がいて、教えてたりします。でも、語弊を恐れずいうのであれば、ほとんどの人は基本的に「スタイルのない綺麗なエア」しか教えてません。というか「スタイル」までは教えられません。「スタイル」を出そうとしないのに、スタイルを出すための手段でしかない危険なダブルコークをする理由ってなんでしょうか?
フリースキーをする意味を考えよう
「俺回れるぜ」精神は一回捨てましょう。これは「これは怪我しないように保険をかけよう」と言っているのではありません。
もう一度、フリースキーをする意味を考えて欲しいのです。ド派手なエアがしたくてチャレンジして失敗して怪我の影響で滑れなくなった人は数多くいます。だから、「回ること重視」の欲求が強すぎると、「回れない」自分の限界を知らずに滑ってしまうので、これが本当に大きなリスクなのです。
かっこいい自分を想像しよう!
あくまでも「かっこいい」を追求するスポーツなのだから、かっこいい自分を探しだすように努力すれば良いのではないでしょうか。みんなが同じ練習をしているからって、その技をやらないといけないはずがありません。コークができなければ他の「かっこいい技」を追求すればいいのです。コーク720よりも360のセーフティーグラブをがっしりとつかめた方が見た目も難易度も高いことは十分にあるのです。そして、行き詰まった時は、自分がイメージするかっこいい技を教えられるライダーやコーチをみつけましょう。
海外ライダーのムービーをとことん見よう!
繰り返し言いますが、日本人がいつもバックフリップやコーク、ミュートグラブにこだわっている、つまり体系的な練習方法が固定化されている一番の原因は、
近年のライダーの滑りを見ていない=近年のフリースキーを知らない
からだと思います。海外ライダーのコーク3で小さなキッカーをかっこよく滑るムービーを見てたら、こんな事態にならないと思います。
アレックス・ボーリー=マルシャンが小さなキッカーでもキメてる動画
なのでまず、自分のやりたい技を知りましょう。とことんムービーを見ましょう。
YouTubeに沢山の海外ライダーの動画が上がっています。同じダブルコークでも軸が少し違ったり、板がクロスしていなかったり、グラブが違かったりと様々な種類があります。
コークも360から3回転する1080まであります。
ダブルコークも1080や1260より720の方が難しく、スタイルも相当出ます。
そしてグラブも片手でつかむグラブから両手でつかむグラブまで本当に色々な方法があります。
ヘンリク・ハーローのダブルコーク720
自分が一番「かっこいい」と思うエアを見つけましょう。
そのあとは、とにかく練習あるのみです。
カメラで撮影し、自分のエアをチェック。自分より上手い人がいたらとにかく上手くなる方法を聞きまくる。自分のエアの欠点を指摘してもらう。そして、良い助言をしてくれるコーチを探しだす。一人だけではなく、いろんなコーチからアドバイスをもらう。そして、自分でやるより何倍も上手くなる時間をお金で買うのです。
観点③:スタイル
今まで何ども繰り返し言い続けてきた「スタイル」。
では「スタイル(STYLE)」について解説しましょう。
一般的に「STYLE」の意味として、「型」「形」「様式」「方法」などといった意味があります。これに「FREE」という名前があるのだから、「FREE STYLE」とは、「自由な型」「自由な様式」といった意味になります。
つまり「FREE STYLE SKI」という競技は、どのような形で飛んでも良い競技なのです。前に回転したら失格などといったルールは一切ありません。
では良く聞く「スタイルがでている」とはどういう意味としてこの競技の場合は捉えられるでしょうか。
私はこう解釈しています。「スタイルが出ている」=「形が強調されている」と。
でフリースタイルスキーなのですから、この場合の「形」とは「自由な形」という意味です。
つまり、「スタイルがでているとは」=「自由な形が強調されている」だと考えています。
この「自由な型が強調されている」ことを推奨しているからこそ、様々なエアが生まれ、競技が発展し、オリンピック競技にまでなったのです。つまり、単刀直入に言ってしまえば、他の人と同じエアをしているだけでは点数にならないのがこの競技なのです。なぜなら、競技の発展への貢献性が、点数として表現されるようになっているからです。
なので、日本で練習しているフリースキーヤーは、本来の楽しみである「自由な型の追求」ではなく、「ある特定の飛び方を追求している」のだと考えられます。
もちろん、ある特定の飛び方とは過去に海外のライダーが飛んでいたエアのことであり、競技の発展性を促す可能性は0に近いので、高い点数が出るはずがありません。
日本スノーボード・シーンを参考にしよう
そういう意味では、私自身も日本のスノーボードシーンを見習いたいと常々思います。角野友基選手などオリジナルの技で勝負しているからこそ海外の人からの「WOW係数」(ワオ!係数)が高く、得点が出ているのです。
逆に日本では、ジェームズ・ウッズのように、スイッチでダブルコークしながらオクトパスグラブをしたりするスタイル(そういうオリジナルの技をシグネチャースタイルという)への追及はほとんどありません。コークをいかに綺麗に決めるかがトレーニングのメインなので、個性=スタイルは出ないようになっています。
X Games Oslo 2016 でのダブルコーク・テールグラブ to ダブルノーズグラブ(ジェームズ・ウッズ)
https://youtu.be/yToyaywNGu0
たくさん回ることに価値を見出す時代は終わりました。かっこいいエアをしましょう。そのために、とてつもない量の練習をしましょう。
発展性が問われるスポーツですが、回転数においては限界が見え始めています。つまり、今までは回転数を上げることが競技の発展性につながっていました。しかし時代は変わるもので、回転数では競技の発展性が図れなくなっています。そして、キッカーやパイプのサイズが大きくならない限り、これから回転数があがることはありません。
つまり、これからのフリースタイルスキー界は、とにかくスタイル勝負になります。他の人がやってないグラブや軸の角度などで個性を出すようにしましょう。
でも、おそらく今フリースキーの練習をしていて、言い出せないだけで、このことに薄々気づいている人も中にはいるのかなと思います。
板の長さも重要
スタイルを重視しないので、板の長い、短いは気にしません。
でも、回転数だけを上げるためだけに短い板を選んで、海外の大会に出ているので、ランでは日本人のスケールの小ささが際立っています。できれば長い板が好ましいです。何度も繰り返しますが、だって短い板で飛んでいても見栄えはないですからね。
特に、スキーボードで飛んでいる人が日本は多いのですが、あれは通常のフリースキー板とは全く異なったものです。スタイル云々ではなく、回ることを重視した板なので、あれでスタイルが追求できるはずがありません。そもそも、スキーは170cmなら170cmの板全体を使って飛ぶものです。
オーリーの方法
(フリースキーヤーのSatoru Takamizawaさんのオーリー解説)
一見海外ライダーのムービーを見ていると簡単に飛んで回してるな、と思われるかもしれません。でもあの飛ぶ瞬間、一瞬にスキー板を使う上手さが凝縮されているのです。高度な技になるほど、キッカーで跳ぶ際にも、オーリーしたり、バターして板をずらしたりと板全体を使用したテクニックが使われているのです。
なので、フリースキーを追求していきたい人は、パウダーやコブを飛んだりとまずは滑ることそのものを同時に練習していきましょう。
ということで、日本人が世界の大会で勝てない理由、かっこわるい理由を3つの観点から考えてみました。当然、他にも様々な意見があると思います。私も日本人としてフリースキーを愛する一人です。これからも『Art&Sports=Life』でいかにしてかっこいい滑りができるか、スタイルってどうやったらでるのかを追求していきたいと思います。